前院長と比較され、スタッフとの距離に悩む2代目・3代目院長へ。信頼関係を一から築き直す5つの方法を、コーチングの視点から具体例つきで解説します。
2代目院長がスタッフの信頼を得る方法とは、前院長のコピーを目指すのではなく、「自分らしいリーダー像」を少しずつ示しながら、対話を通じてスタッフ一人ひとりと新しい関係を築いていくことです。
医院を継いだその日から、あなたは「前院長の息子さん・娘さん」という目で見られ続けます。診療方針を少し変えただけで「前の先生のときは…」と返され、良かれと思った提案がなぜか空回りする。私自身も、周囲と比較されながら人間関係に悩み、夜中に「自分はこの場所に必要とされているのだろうか」と考え込んだ時期がありました。この記事では、そんなあなたが今日から踏み出せる一歩をお伝えします。
この記事を読むとわかること
- スタッフが「前院長と比較してくる」本当の理由
- 2代目院長が信頼を失う3つの落とし穴
- 信頼を一から築き直すための5つの具体的な方法
なぜスタッフは前院長と比較するのか
スタッフが前院長と比較してくるのはなぜかというと、多くの場合、あなたへの敵意ではなく「変化への不安」が原因です。長く勤めるスタッフほど、慣れ親しんだやり方が変わることに恐怖を感じ、その不安が「前の先生は…」という言葉になって表れます。ここを敵対と受け取るか、不安のサインと受け取るかで、その後の関係は大きく変わります。
「前の先生は」の裏にある本当の気持ち
歯科医院や医科クリニックは少人数の職場です。だからこそ、ひとつの変化が職場全体の空気を左右します。ある2代目院長は、承継直後に予約システムをデジタル化しようとしたところ、ベテラン衛生士から強い抵抗を受けました。しかし後日ゆっくり話を聞くと、その衛生士は「新しいやり方についていけず、自分が要らない人間になるのが怖かった」と打ち明けたそうです。比較の言葉は、多くの場合、自分の居場所を守ろうとする防衛反応なのです。
「前の先生は」という言葉は、否定ではなく「不安です」というSOSなのです。
少人数の職場だからこそ関係がこじれやすい
厚生労働省の調査や業界レポートでも、歯科衛生士の退職理由の上位には常に「人間関係」が挙げられます。人間関係の問題が起きたとき、大企業なら部署異動という逃げ道がありますが、数人しかいない医院ではそれができません。院長との関係が一度こじれると修復が難しく、離職に直結してしまう。だからこそ、比較を「されて当然の通過儀礼」と諦めるのではなく、初期段階で丁寧に向き合うことが何より重要になります。
2代目院長が信頼を失う3つの落とし穴
2代目院長が信頼を失うのはどんなときかというと、多くは「早く自分の色を出そう」と焦った結果です。承継直後は誰もが不安で、その不安を打ち消すために大きく動きたくなります。しかし、その焦りこそが最大の落とし穴になります。ここでは私自身の失敗も含め、代表的な3つのパターンを紹介します。
落とし穴1:いきなり改革を始める
承継したその月から診療方針や設備、就業ルールを一気に変えると、スタッフは「自分たちの積み上げてきたものを否定された」と感じます。事業承継の専門家がまず新院長に勧めるのは「前院長の完全コピーから始めること」です。これは自分を殺せという意味ではなく、患者とスタッフの違和感をなくすことを最優先にせよ、という意味です。改革の中身が正しくても、順番を間違えると信頼を失います。
落とし穴2:前院長を否定してしまう
「前のやり方は古い」とつい口にしてしまう。これは長く勤めるスタッフにとって、自分たちの過去を全否定される言葉です。前院長を立てることは、そのもとで働いてきたスタッフを立てることでもあります。私自身も、良かれと思って旧来のやり方を批判し、空気を凍らせてしまった経験があります。
前院長を否定することは、その時代を支えたスタッフを否定することと同じなのです。
落とし穴3:スタッフの声を聞かずに決める
「院長が決めたことだから」と説明なしに指示を通すと、スタッフは「意見を言っても無駄だ」と学習します。心理的安全性が失われた職場では、本音が出てこなくなり、問題が水面下で進行します。気づいたときには複数のスタッフが同時に退職を申し出る、という事態にもなりかねません。
| 落とし穴 | スタッフの受け取り方 | 起きること |
|---|---|---|
| いきなり改革 | 過去を否定された | 抵抗・非協力 |
| 前院長を否定 | 自分たちも否定された | 心が離れる |
| 声を聞かず決定 | 意見しても無駄 | 本音が消える |
信頼を築き直す方法1:まず聞くことに徹する
信頼を築く第一歩は何かというと、話すことではなく「聞くこと」です。新しいリーダーは自分の考えを早く伝えたくなりますが、スタッフが本当に求めているのは「新しい院長は自分たちを理解してくれるだろうか」という問いへの答えです。最初の数ヶ月は、方針を語るより、一人ひとりの話を聞く時間を意図的に作ってください。
個別面談で「これまで」をねぎらう
私がおすすめしているのは、承継後できるだけ早い段階で、スタッフ全員と一対一の面談を行うことです。そこで話すのは新しい方針ではなく、「これまでどんな思いで働いてきたか」「今、困っていることはないか」です。ある院長はこの面談を通じて、表向き無愛想だったベテランスタッフが、実は誰よりも医院の将来を心配していたことを知りました。聞くという行為そのものが、「あなたを大切に思っている」というメッセージになります。
このとき大切なのは、聞いた内容をすぐ評価したり、その場で反論したりしないことです。「それは違う」と言いたくなっても、まずは「そう感じていたんですね」と受け止める。人は、正しさよりも先に「理解された」という実感を求めています。面談の場でいきなり解決策を出すより、「話してよかった」という感覚を残すほうが、長い目で見れば信頼につながります。私自身、若い頃は相手が話し終える前に答えを返してしまい、かえって心を閉ざされたことが何度もありました。聞くとは、沈黙に耐える力でもあるのだと、痛感しています。
信頼は、あなたが何を語るかではなく、相手の話をどれだけ聞けるかで決まります。
信頼を築き直す方法2:小さな約束を守り続ける
信頼はどうやって積み上がるのかというと、大きな成果ではなく「小さな約束を守り続けること」によってです。「検討しておく」と言ったことを翌週きちんと報告する、面談で出た要望に一つでも応える。こうした小さな一貫性が、「この院長は言ったことをやる人だ」という評価を作ります。
「言ったことをやる人」という評価が土台になる
たとえば「休憩室のエアコンが古い」という声に対し、すぐ全交換はできなくても「見積もりを取った」「来月直す」と経過を共有するだけで、スタッフの受け取り方はまるで違います。逆に、大きなビジョンを語りながら足元の約束を放置すると、言葉は一気に軽くなります。派手さより誠実さ。これが2代目院長にとって最強の武器になります。
ここで見落とされがちなのが、「できない約束はしない」という引き算の姿勢です。承継直後の院長は、スタッフに好かれたい一心で、つい「なんでも相談してね」「待遇もよくするから」と大きな言葉を並べてしまいがちです。しかし、実現できなかったときの失望は、最初から何も言わなかったときよりずっと大きくなります。信頼とは、期待を大きく膨らませることではなく、小さな期待を確実に超え続けることで積み上がるものです。私自身、勢いで口にした約束を守れず、スタッフの表情が曇った瞬間を今でも覚えています。だからこそ、言葉は少なく、行動は確実に。この順番を大切にしてほしいのです。
信頼を築き直す方法3:変化は理由とセットで伝える
なぜ変えるのかを伝えるべき理由は何かというと、人は「変化」そのものより「説明のない変化」に抵抗するからです。同じ改革でも、背景と目的を共有すれば納得は大きく変わります。「新しい機器を入れる」ではなく「患者さんの待ち時間を減らし、あなたたちの残業も減らすために入れる」と伝える。主語にスタッフの利益を含めることが鍵です。
「何を」より「なぜ」を先に語る
私自身、改革の中身ばかり説明して失敗したことがあります。大切なのは順番で、「なぜ今それが必要か」「それで誰が楽になるか」を先に語ると、スタッフは自分ごととして受け止めてくれます。変化を一方的な命令ではなく、一緒に向かう目標に変えられるかどうか。ここに2代目院長の力量が表れます。
もうひとつ有効なのは、変化を決める前の段階でスタッフに意見を求めることです。「こういう課題を感じているのだけど、現場から見てどう思う?」と問いかけるだけで、スタッフは「決定に関わった当事者」になります。人は、自分が関わって決めたことには前向きに動きます。ある医科クリニックでは、電子カルテの入れ替えを決める際に受付スタッフの意見を取り入れた結果、導入後の混乱がほとんど起きなかったといいます。変化の成否は、機器の性能ではなく、決めるプロセスに現場を巻き込めたかどうかで決まるのです。
人が抵抗するのは変化ではなく、置き去りにされることへの不安です。
信頼を築き直す方法4:自分らしさを少しずつ出す
2代目院長はいつまで前院長のコピーでいるべきかというと、答えは「信頼の土台ができるまで」です。最初はコピーから入っても、ずっと前院長の影を演じ続ける必要はありません。関係ができてきたら、あなた自身の強みや価値観を少しずつ出していきましょう。継いだ意味は、あなたにしかできないことをするためにあります。
コピーから卒業するタイミング
目安は、スタッフから自然に相談が持ちかけられるようになった頃です。それは「この院長になら本音を言える」というサインです。ある3代目院長は、承継から一年かけて信頼を築いたあと、自分が得意とする予防歯科に医院の軸を移していきました。スタッフも「先生らしい医院になってきた」と前向きに受け止めたそうです。焦らず、しかし確実に、あなた色へ移していくのが理想です。
ここで意識したいのは、「前院長との違い」を強調するのではなく、「自分の得意なこと」を静かに積み重ねる姿勢です。「前とは違うやり方でいきます」と宣言すると、それは再び比較の土俵に自分を上げる行為になってしまいます。そうではなく、あなたが本当に大切にしたい価値観を、日々の診療や声かけの中でにじませていく。その積み重ねが、いつのまにか「この医院はこういう場所だ」という新しい文化をつくります。継承とは、前の時代を消すことではなく、受け継いだ土台の上に、あなたという新しい一階を建て増していく営みなのです。
信頼を築き直す方法5:第三者の力を借りる
院長一人で抱えなくてよい理由は何かというと、当事者同士では見えない感情のもつれを、第三者が解きほぐせることがあるからです。院長とスタッフという上下関係では、どうしても言えない本音があります。そこに中立な立場の存在が入ると、対話の質が大きく変わります。
面談代行・コーチングという選択肢
私たちが提供しているスタッフ面談代行やコーチング研修は、まさにこの「言いにくい本音」を引き出すための仕組みです。第三者が定期的に面談を行うことで、離職の芽を早期に発見でき、院長も一人で悩まずに済みます。人間関係の悩みは、院長の力不足ではありません。仕組みで解決できる課題なのです。
院長が一人で抱え込むのをやめた瞬間から、医院の空気は変わり始めます。
よくある質問(FAQ)
Q. 承継後、どのくらいで自分の色を出していい?
A. 目安は信頼の土台ができる半年〜1年後。焦らず段階的に移すのが安全です。
Q. 前院長と比較されたらどう返せばいい?
A. 否定せず「教えてください」と受け止めることで、不安が対話に変わります。
Q. ベテランスタッフとの関係改善のコツは?
A. まず個別面談でこれまでをねぎらい、意見を求める姿勢を見せることです。
Q. スタッフが次々辞めるのは院長の責任?
A. 力不足ではなく仕組みの問題です。面談体制の見直しで改善できます。
Q. 第三者面談を入れるメリットは?
A. 院長に言えない本音を引き出せ、離職の兆候を早期に察知できます。
まとめ|比較される日々は、必ず終わります
前院長と比較される日々は、あなたが未熟だからではなく、承継という変化の途中にいるからこそ起きるものです。まず聞くことに徹し、小さな約束を守り、変化は理由とともに伝え、少しずつ自分らしさを出し、必要なら第三者の力を借りる。この5つを続ければ、比較の言葉は少しずつ「先生に相談したい」という言葉へと変わっていきます。
私自身も人間関係に悩み、出口が見えない夜を過ごしました。だからこそ、同じように悩むあなたに伝えたいのです。あなたは一人で抱え込まなくていい、と。
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