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歯科医院の古参スタッフの扱い方|2代目院長の心得

歯科医院における「古参スタッフの扱い方」とは、前院長の時代から医院を支えてきたベテランスタッフの功績と現場感覚に敬意を払いながら、新院長として対等な信頼関係と適切な指揮命令系統を築いていくためのコミュニケーション技術のことです。単なる「気を遣う」「機嫌をとる」ということではなく、経験への敬意と経営責任者としての立場の両方を両立させる、事業承継期特有のマネジメントスキルを指します。

目次

「前院長の右腕」だった古参スタッフとの関係に悩む2代目・3代目院長は、実はとても多いです

継承して2〜3年が経っても、朝礼で発言すると衛生士長の顔色を一瞬うかがってしまう。診療方針を変えたいのに、「先代の頃はこうだった」と言われると言葉が出なくなる。新人スタッフへの指導方針で意見が食い違っても、結局は古参スタッフの言い分が通ってしまう。そんなご自身に、モヤモヤした違和感を覚えている院長先生は少なくありません。

院長という肩書きを持ちながら、実際の医院運営では「お客さん扱い」されているように感じる、という声を耳にすることもあります。診療技術には自信があるのに、なぜか組織の中心にいる実感が持てない。この違和感の正体を言語化できないまま、日々の診療に追われている院長先生は決して少なくないのです。

私たちPlumChanには、継承2年目・3年目の院長先生からのご相談が数多く寄せられますが、その大半に共通するキーワードが「古参スタッフ」です。前院長の時代から10年、15年と勤務しているベテランの歯科衛生士や受付リーダーは、医院にとって間違いなく貴重な戦力です。しかし同時に、新院長にとっては「自分より医院を知っている人」であり、「前院長と比較する視線を持つ人」でもあります。ここに、多くの2代目・3代目院長が言葉にできない気まずさを感じる理由があります。

前院長と比較され、板挟みになる院長の本音

「先代先生はこうしてくれた」「前の院長先生の時はもっと相談してくれた」——診療中や休憩室で、こうした言葉を古参スタッフからかけられた経験がある院長先生は多いはずです。悪気なく発せられた一言でも、継承したばかりの院長にとっては自分の経営者としての正当性を疑われているように感じられ、深く傷つくものです。この「比較される痛み」を誰にも相談できないまま抱え込んでいることこそが、古参スタッフとの関係をこじらせる最初のボタンの掛け違いです。

「辞められたら困る」という恐れが、院長の行動を縛る

もう一つの本音は、「このベテランに辞められたら診療が回らない」という強い恐れです。特に歯科衛生士やチェアサイドアシスタントが慢性的に不足している地域では、経験豊富な古参スタッフの離職は医院経営に直結するダメージになります。この恐れがあるために、院長は必要な指摘や方針変更を先延ばしにし、結果として「言いたいことを言えない院長」というポジションに自ら追い込まれてしまうのです。

実際にPlumChanへご相談くださったある2代目院長は、「スタッフに辞められるのが怖くて、3年間ずっと本音を飲み込んできました」と話してくださいました。診療報酬の改定や採用難が続く歯科業界において、この「辞められる恐怖」は決して大げさな話ではなく、多くの院長先生が現実として直面している経営リスクです。だからこそ、恐れに支配されるのではなく、恐れを前提とした上でどう関係を築くかという発想の転換が必要になります。

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なぜ古参スタッフとの力関係で悩むのか——問題の本質を整理する

古参スタッフとの関係に悩む背景には、単なる「性格の相性」では片づけられない、事業承継特有の構造的な問題があります。ここを正しく理解しないまま「もっと優しく接しよう」「もっと厳しくしよう」と対症療法を重ねても、根本的な解決にはつながりません。

古参スタッフは「医院の記憶」を独占している

古参スタッフは、カルテには残らない情報——患者一人ひとりの性格や家族構成、過去のクレーム対応の経緯、機材の癖、他のスタッフとの相性まで、医院運営に関わる膨大な「暗黙知」を頭の中に持っています。この情報の非対称性こそが、院長よりも古参スタッフのほうが実質的な発言力を持ってしまう最大の理由です。院長は診療の技術と経営の意思決定権を持っていますが、現場運営の「実効支配」は古参スタッフの手にあるケースが少なくありません。

例えば予約表の組み方一つをとっても、「この患者さんは午前中のほうが機嫌がいい」「この時間帯にこの器材を使うと準備が間に合わない」といった細かな判断は、マニュアル化されていないことがほとんどです。院長がこの暗黙知にアクセスできない限り、どれだけ経営の数字を分析しても、現場は思うように動いてくれません。古参スタッフとの関係構築は、単なる感情論ではなく、この「暗黙知へのアクセス権」を得るための実務的な取り組みでもあるのです。

経営権と現場の実権がずれている

法律上・経営上の最終決定権は院長にありますが、日々のシフト調整、備品発注、新人指導の実権は、慣習的に古参スタッフに委ねられていることがほとんどです。この「経営権」と「現場の実権」のズレが埋まらないまま数年が経過すると、院長が方針を打ち出しても現場レベルで骨抜きにされる、という事態が起こります。

新院長への「値踏み期間」が存在する

古参スタッフの側にも言い分があります。彼女たちにとって、経験の浅い2代目・3代目院長は「本当にこの医院を任せられる人物か」をまだ見極めている段階にあります。これは意地悪や反抗ではなく、長年医院に尽くしてきたスタッフとしてごく自然な心理です。この「値踏み期間」は避けられないプロセスであり、焦って力ずくで従わせようとするほど、かえって関係はこじれます。

古参スタッフとの関係がこじれる3つの原因

実際に継承後の院長先生と面談を重ねる中で見えてきた、関係がこじれる典型的な原因は次の3つに整理できます。

原因1:遠慮と迎合で境界線が引けていない

「嫌われたくない」という気持ちが先に立ち、本来院長として伝えるべき業務上の指摘や方針変更を先延ばしにしてしまうケースです。遠慮を重ねた結果、古参スタッフの側は「院長は何も言ってこない=現状のままでいい」と受け取り、両者の認識にズレが生じます。数年後、我慢の限界に達した院長が突然強い態度に出ると、古参スタッフからすれば「急に態度を変えた」と受け止められ、関係が一気に悪化するという悪循環が起こります。

遠慮と敬意は似ているようでまったく別のものです。遠慮は「相手を怒らせたくないから黙る」という自分本位の回避行動である一方、敬意は「相手の経験を尊重した上で、必要なことはきちんと伝える」という積極的な姿勢です。古参スタッフとの関係で本当に求められているのは遠慮ではなく敬意であり、この違いを理解しないまま「優しい院長」を演じ続けることが、長期的には最も大きな禍根を残します。

原因2:功績や経験への敬意を言葉にしていない

院長自身は内心で古参スタッフの経験を評価していても、それを言葉で明確に伝えていないケースが非常に多く見られます。人は評価されていることを言葉で確認できないと、不安や不満を募らせるものです。特に前院長からの世代交代を経験した古参スタッフは、「新しい院長にとって自分は不要な存在になるのでは」という漠然とした不安を抱えていることが多く、そこに敬意の言葉がないと、防衛的・保守的な態度がさらに強まってしまいます。

コーチングの現場でよく言われる原則に、「行動は変えられても、承認されたい気持ちは消えない」というものがあります。古参スタッフが新しいやり方に抵抗するとき、その本質は「変化そのものへの反対」ではなく、「自分の存在価値が薄まることへの不安」であるケースが大半です。院長が意識的に「ありがとう」「助かっています」という言葉を日常的にかけるだけでも、防衛的な態度は少しずつ和らいでいきます。

原因3:方針転換を「否定」として伝えてしまう

新しい取り組みを導入する際、「今までのやり方は古いので変えます」という伝え方をしてしまうと、古参スタッフはこれまでの自分の仕事そのものを否定されたと受け取ります。院長にそのつもりがなくても、伝え方一つで「前院長時代の否定」というメッセージに変換されてしまうのです。変化を伝えるときの言葉選びこそが、古参スタッフとの信頼関係を左右する最大の分岐点です。

こじれやすい伝え方 信頼を築きやすい伝え方
「今のやり方だと患者さんが減るので変えます」 「これまでの土台があるからこそ、次の一歩に挑戦したいんです」
「もう少し効率よくやってもらえますか」 「〇〇さんの経験を踏まえて、一緒にやり方を見直したいです」
(何も言わず黙って我慢する) 「率直に言うと、ここは変えたいと思っています」

古参スタッフとの信頼関係を築く具体的な扱い方

ここからは、実際に継承した院長先生に実践していただいて効果があった、具体的な行動レベルの方法をご紹介します。抽象的な心構えではなく、明日から使える手順としてお読みください。

最初の90日は「変えない宣言」から始める

継承直後にありがちな失敗は、意気込みのあまり就任早々に次々と改革を打ち出してしまうことです。古参スタッフからすれば、自分たちが築いてきたものを一気に壊されるように感じ、強い抵抗感につながります。おすすめは、就任時に「最初の90日間は大きな変更はせず、まず医院のことをしっかり理解させてください」と明言することです。これにより古参スタッフは安心し、院長を観察する「値踏み期間」を落ち着いて過ごすことができます。院長自身にとっても、拙速な判断を避け、医院の実態を正確に把握する時間になります。

個別面談で歴史を聞く「敬意の儀式」

就任後できるだけ早い段階で、古参スタッフ一人ひとりと15〜20分程度の個別面談の時間を設けてください。議題は評価や指導ではなく、「この医院でこれまでどんなことを大切にしてきたか」「印象に残っている出来事は何か」を聞くことです。過去を尋ねられること自体が、その人の存在を認める最も強いメッセージになります。私自身、前職で組織のマネジメントに悩んだ経験がありますが、相手の歴史を聞く時間を持つだけで、その後のコミュニケーションの土台が大きく変わることを実感しました。古参スタッフとの関係も同じで、まず聞く、それから伝える、という順番を守ることが何より重要です。

面談の最後には、必ず「これからも力を貸してください」という一言を添えてください。過去を尋ねるだけで終わると、単なる懐古的な雑談で終わってしまいます。過去への敬意と、未来への期待をセットで伝えることで、古参スタッフは「自分はこれからも必要とされている」という安心感を持って診療に臨めるようになります。この面談は一度で終わらせず、3ヶ月に一度程度の頻度で継続することで、信頼関係は着実に積み重なっていきます。

役割の再定義は「格上げ」の言葉で伝える

業務内容や役割を変更する際は、「変える」ではなく「託す」という言葉を使うことをおすすめします。例えば、これまで一人で担っていた新人指導を仕組み化する場合、「〇〇さんにしかできない教育のノウハウを、後輩にも伝えられる形にしていきたいので、教育リーダーとして力を貸してください」というように、役割の再定義を「格上げ」として伝えます。同じ変更内容でも、伝え方によって受け取られ方はまったく異なります。

小さな決定権を渡して協力者に変える

古参スタッフが院長に非協力的になる背景には、「決定権がすべて奪われた」という喪失感があることが少なくありません。備品の選定、新人の研修スケジュール、患者向け案内文の文言など、経営の根幹に関わらない範囲で構わないので、明確に決定権を渡してみてください。任された範囲で成果が出れば、それは古参スタッフ自身の自信にもなり、院長への協力姿勢に変わっていきます。力で押さえつけるのではなく、権限を渡すことで関係を変えるという発想の転換が鍵です。

決定権を渡す際は、「好きにしていいですよ」という丸投げではなく、「ここまでは任せます、この範囲は必ず相談してください」という枠組みを明確に示すことが大切です。曖昧な権限委譲は、かえって「どこまでやっていいか分からない」という新たな不安を生みます。任せる範囲と相談すべき範囲を最初にすり合わせておくことで、古参スタッフは安心して裁量を発揮できるようになり、院長も安心して任せられるという好循環が生まれます。

それでも距離が縮まらないときの具体的アクション

ここまでの方法を試しても、なかなか関係が改善しないケースもあります。長年積み重なった感情や力関係は、一朝一夕には変わりません。そんなときに検討していただきたい具体策を紹介します。

第三者を交えた1on1面談代行という選択肢

院長とスタッフという当事者同士だけで話すと、どうしても過去の経緯や感情が邪魔をして本音が出てこないことがあります。PlumChanでは、医科・歯科医院専門のコーチが第三者としてスタッフとの個別面談に入る「面談代行サービス」を提供しています。院長には言えない不満や本音を、専門のコーチが丁寧に引き出し、院長にフィードバックすることで、当事者同士では埋められなかった溝を埋める橋渡し役になります。実際にこの面談代行を導入した医院では、「院長には言えなかったけれど、実は評価されていないと感じていた」という古参スタッフの本音が明らかになり、そこから関係修復が進んだ事例が複数あります。

興味深いのは、古参スタッフの側もまた「院長に直接は言いにくいけれど、誰かには聞いてほしい」という思いを抱えているケースが非常に多いということです。院長とスタッフという上下関係の外側に立つ第三者だからこそ引き出せる本音があり、それを院長にフィードバックする過程で、双方が「相手も同じように悩んでいたのか」と気づき、関係が動き出すことは珍しくありません。院長一人で抱え込まず、外部の力を借りるという選択肢を早い段階で持っておくことは、決して弱さではなく、経営者としての合理的な判断です。

就業規則・評価制度を「共通言語」にする

感情的な対立が続く場合、院長個人の裁量やその場の空気で物事を決めていると、「院長のさじ加減」という不透明さがさらに不信感を強めます。評価制度や就業規則を整備し、誰にとっても分かりやすい共通のルールとして運用することで、個人対個人の力関係から、ルールに基づいた対等な関係へと軸足を移すことができます。制度という「共通言語」があることで、院長も古参スタッフも感情論から距離を置いて話し合えるようになります。

評価制度を新しく導入する際は、いきなり給与に反映させるのではなく、まず「何を評価するのか」を明文化し、古参スタッフを含めた全員に説明する機会を設けることをおすすめします。長年の経験や患者からの信頼といった、数値化しにくい貢献をきちんと評価項目に組み込むことで、古参スタッフも「自分の価値がきちんと制度の中に反映されている」と感じられ、制度そのものへの反発を防ぐことができます。

見切りをつけるべきサインを見極める

誠実に関係構築を試みても、患者やほかのスタッフの前で院長を軽視する発言を繰り返す、新人がその古参スタッフを恐れて定着しないなど、医院全体に悪影響が及んでいる場合は、専門家(社会保険労務士など)に相談しながら、雇用契約の見直しを含めた対応を検討する時期かもしれません。すべての古参スタッフとの関係が改善できるわけではないという現実も、経営者として受け止めておく必要があります。

見極めのポイントは、「その古参スタッフの言動が、院長個人への不満なのか、それとも医院全体の秩序を壊すレベルの問題なのか」を切り分けることです。前者であれば、これまでご紹介してきた関係構築の方法で改善する余地は十分にあります。しかし後者、つまり他のスタッフの定着や患者からの信頼にまで悪影響が及んでいる場合は、院長個人の努力だけで解決しようとせず、早めに専門家の力を借りて組織として対応する判断が必要です。一人で抱え込み続けることが、結果として医院全体を疲弊させてしまうことを忘れないでください。

まとめ|古参スタッフは「壁」ではなく「資産」になる

古参スタッフとの関係は、多くの2代目・3代目院長にとって継承後最大の悩みの一つです。しかし、彼女たちが持つ経験と患者からの信頼は、正しく向き合えば医院にとって何よりの資産になります。遠慮でも迎合でもなく、敬意を言葉にし、少しずつ決定権を渡し、変化を「否定」ではなく「託す」という形で伝えていく。この積み重ねが、古参スタッフを「前院長の亡霊」から「新院長を支える最も心強い味方」に変えていきます。古参スタッフとの関係に悩んでいるのは、あなただけではありません。一人で抱え込まず、必要なときは第三者の力も借りながら、少しずつ関係を築いていってください。

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よくある質問

Q1. 古参スタッフに嫌われないためにはどうすればいいですか?

A. 過去の功績を言葉で認め、変更前に必ず相談する姿勢を示すことです。

Q2. 古参スタッフが新院長の指示を聞いてくれません。どうすればいいですか?

A. 個別面談で本音を聞き、小さな決定権を渡して協力者に変えましょう。

Q3. 古参スタッフを辞めさせることは可能ですか?

A. 法的手続きと代替人材の確保が必須で、慎重な判断が必要です。

Q4. 古参スタッフとの面談は誰が同席すべきですか?

A. 院長一人で難しい場合は第三者のコーチや専門家の同席が有効です。

Q5. 新しい方針はいつから伝えるべきですか?

A. 就任直後90日は様子見に徹し、信頼構築後に段階的に伝えます。

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この記事を書いた人

梅田 亮のアバター 梅田 亮 代表取締役

株式会社PlumChan 代表取締役。医科・歯科専門でコーチング技術を用いたコミュニケーション研修やスタッフ面談代行を行い、心理的安全性の高い職場づくりを行っています。

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