スタッフとの面談を、勇気を出して時間を取った。それなのに、返ってくるのは「特に問題ありません」「大丈夫です」ばかり。会議室の空気は妙に硬く、五分もすれば話すことがなくなってしまう。そんな面談を、あなたも繰り返してはいないでしょうか。
本音を聞きたくて始めたはずの面談が、いつのまにか「やっているという事実」だけを積み上げる作業になっている。そして数か月後、当たり障りのない受け答えをしていたはずのスタッフが、突然「退職します」と封筒を差し出してくる——。
スタッフ面談とは、本音を”聞き出す”場ではなく、本音が”漏れてもいい”と相手が思える関係をつくる場です。
この記事では、次の3つをお伝えします。第一に、なぜあなたの面談が雑談で終わってしまうのか、その本当の原因。第二に、明日の面談からそのまま使える、本音を引き出す5つの具体的な方法。第三に、私自身が離職の連鎖を止めるまでに回り道して学んだ、面談後にこそ大切なこと。同じように人間関係で悩んできた一人として、できるだけ具体的にお話しします。
なぜ面談が「雑談」で終わってしまうのか
スタッフ面談が機能しない最大の理由は何かというと、面談の「目的」があなたとスタッフでずれているからです。院長は本音や課題を聞きたいのに、スタッフ側は「評価される場」「詰められる場」だと身構えている。この温度差がある限り、どれだけ時間をかけても本音は出てきません。
歯科医院の面談が難しいのは、院長とスタッフの距離がとても近いからでもあります。毎日同じチェアの前で肩を並べて働き、患者さんの前では笑顔をつくり、休憩室では世間話をする。その関係のまま「さあ面談です」と改まると、お互いに何を話していいのか分からなくなる。日常の距離が近いほど、あえて設けた面談の場が不自然に感じられてしまうのです。
私自身、医院を引き継いだ当初の面談は、今思えばひどいものでした。「何か困っていることはない?」と聞き、「大丈夫です」と返ってきたら「そうか、よかった」で終わる。自分では歩み寄っているつもりでした。けれど後になって、あるスタッフから「あの面談、何を言っても変わらないと思っていました」と打ち明けられ、言葉を失いました。私は聞いているつもりで、実は何も引き出せていなかったのです。
面談で本音が出ないのは、スタッフが本音を持っていないからではなく、話しても無駄だと学習してしまっているからです。
面談で本音が出ない3つの原因
面談がうまくいかない背景には、共通する3つの原因があります。ひとつずつ確認していくと、自分の面談のどこに穴があったのかが見えてきます。ここを押さえるだけで、次の面談の質は大きく変わります。
原因①:院長が「話しすぎている」
意外に思われるかもしれませんが、面談が失敗する最も多いパターンは、院長が話しすぎていることです。良かれと思ってアドバイスをし、方針を説明し、励ます。気づけば面談時間の八割を院長が話している、というケースは珍しくありません。
面談の主役はスタッフです。院長が話す時間が増えるほど、スタッフの本音が入るスペースは消えていきます。理想は、院長が話すのは全体の三割、残りの七割はスタッフに話してもらうこと。沈黙が怖くて口を挟みたくなりますが、その沈黙こそが、相手が本音を言葉にするための大切な時間なのです。
原因②:目的が曖昧なまま始めている
二つ目の原因は、その面談で何を話すのかが決まっていないことです。「とりあえず定期面談だから」と目的が曖昧なまま始めると、スタッフは何を求められているのか分からず、無難な受け答えに終始します。
冒頭で「今日は、あなたが最近やりがいを感じた場面について聞かせてほしい」と目的を一つに絞るだけで、面談は驚くほど変わります。テーマが明確だと、スタッフも準備ができ、話が具体的になります。あれもこれもと欲張らず、一回の面談でテーマは一つ。これが機能する面談の鉄則です。
原因③:面談が「言いっぱなし」で終わっている
三つ目は、面談で出た話がその後どこにもつながっていないことです。せっかくスタッフが勇気を出して要望を口にしても、翌週になっても何も変わらなければ、「やっぱり言っても無駄だった」という学習だけが残ります。
一度この「言っても無駄」を学習させてしまうと、次の面談からは本音の扉が固く閉じます。逆に、小さな要望でも一つ形にして「この前の話、こうしてみたよ」と返すと、「この院長は聞いてくれる」という信頼が芽生えます。面談は、その場の会話ではなく、面談と面談の”あいだ”の行動で決まるのです。
具体例:面談を変えて離職が止まった歯科医院
ここで、私がお話をうかがった、ある歯科医院のケースをご紹介します。スタッフ十名ほどのその医院では、二年間で歯科衛生士が四人続けて辞めていました。院長先生は定期面談をきちんと行っていて、記録も残していました。それでも離職は止まらなかったのです。
面談記録を見せていただくと、どのスタッフの欄にも「特に問題なし」「順調」という言葉が並んでいました。院長は「みんな順調だと言っていたのに、なぜ辞めるのか分からない」と肩を落としていました。話を聞くうちに見えてきたのは、その面談が院長からの質問と確認で埋め尽くされ、スタッフが自分から話す余白がまったくなかったことでした。
そこで院長先生は、面談のやり方を思い切って変えました。冒頭で「今日は評価の話は一切しません。あなたが働くうえで、ここだけは大事にしたいと思っていることを教えてほしい」と伝え、あとはひたすら聴くことに徹したのです。最初の数回は相変わらず「特にないです」でした。けれど三回目のある日、若い衛生士が「実は、新人の子に教える時間が取れなくて、ずっと申し訳なく思っていて」と、初めて自分の言葉で語り始めたそうです。そこから医院の空気は少しずつ変わり、その後一年間、退職者はゼロになりました。
人が辞める医院に足りないのは面談の回数ではなく、本音が安心して置ける場所なのです。
本音を引き出す5つの方法
では、具体的にどうすれば本音を引き出せるのでしょうか。結論から言えば、テクニックよりも「順番」と「あなたの姿勢」が九割です。ここでは、明日の面談からそのまま使える5つの方法を、優先度の高い順にお伝えします。
まず全体像を整理します。以下の5つは、上から順に効果が出やすく、取り組む負担も軽いものから並べています。
| 方法 | 具体的にやること | 効果 |
|---|---|---|
| ①目的を一つに絞る | 冒頭で「今日は〇〇を話したい」と宣言する | 話が具体的になる |
| ②評価と面談を分ける | 「今日は評価しない」と最初に伝える | 防御が解ける |
| ③7割は聴く | 院長が話すのは3割まで、沈黙を待つ | 本音の余白が生まれる |
| ④質問を開いた形にする | 「はい/いいえ」で終わらない聞き方をする | 相手の言葉が増える |
| ⑤決めたことを行動に移す | 次回までに一つ実際に反映する | 「聞いてくれる」信頼が育つ |
方法①・②:土台をつくる「目的の宣言」と「評価との分離」
最初にやるべきは、面談の目的を一つに絞り、それを冒頭で宣言することです。そしてもう一つ、評価面談と本音を聴く面談を分けること。この二つは面談の”土台”です。「今日は評価やダメ出しはしません」と最初に伝えるだけで、スタッフの身構えは大きくやわらぎます。人は、裁かれないと分かって初めて、本当のことを話せるのです。
私が面談で意識しているのは、最初の一分をあえて「これは評価の場ではない」と伝えることに使うことです。たったそれだけで、相手の肩の力が抜けるのが分かります。安心が先、本音は後。この順番を逆にしては、決してうまくいきません。
方法③・④:会話を深める「聴く姿勢」と「開いた質問」
土台ができたら、次は聴き方です。院長が話すのは全体の三割まで、と決めてください。そして質問は、「はい・いいえ」で終わる閉じた質問ではなく、「どう感じた?」「どうなったら理想?」といった開いた質問に変えます。
たとえば「仕事は順調?」と聞けば「はい」で終わります。けれど「最近の仕事で、いちばん手応えを感じたのはどんな場面?」と聞けば、相手は具体的な情景を語り始めます。質問の形を少し変えるだけで、返ってくる言葉の量はまるで変わります。閉じた質問は答えを閉じ、開いた質問は心を開くのです。
方法⑤:面談を無駄にしない「行動への接続」
最後の、そして最も大切な方法が、面談で出た話を必ず一つ行動に移すことです。どんなに小さな要望でも構いません。「休憩室にお湯を置いてほしい」でもいい。それを実際に叶えて「この前の話、やってみたよ」と返す。この積み重ねが、面談を”意味のある場”に変えます。
逆に言えば、行動につながらない面談は、回を重ねるほど信頼を削っていきます。面談の価値は会話の中身ではなく、その後にあなたが動くかどうかで決まります。
今日からできる具体的なアクション
明日から面談を全部変える必要はありません。今日、あなたが一人でできる小さな準備からお伝えします。まずは、次の面談で使うたった一つの「開いた質問」を決めておくことです。
おすすめは、「この医院で働くなかで、あなたが密かに大事にしていることって何?」という問いです。この質問には、評価の匂いがありません。相手の価値観をそのまま尊重する問いなので、スタッフは安心して自分の言葉を探し始めます。まずはこの一問を、次の面談の冒頭に置いてみてください。
次に、面談用の小さなノートを一冊用意し、スタッフが話してくれた「行動に移せそうな要望」を一つだけメモしてください。あれもこれもと抱え込まず、一人につき一つでいい。そして翌週までにそれを一つ形にして、本人に「やってみたよ」と伝える。この一往復が、次の面談の本音の量をまるごと変えます。
もし今、何を話していいか分からないほど関係が固くなっていると感じるなら、最初の面談はあえて「聴くだけ」に徹してみてください。解決も助言もしなくていい。ただ相手の話を最後までさえぎらずに聴く。それだけで「この人は自分の話を聞いてくれる」という最初の一歩が生まれます。今日必要なのは、うまく話す準備ではなく、最後まで聴く覚悟です。
陥りやすい落とし穴——「本音を引き出す」を目的にしないこと
ここで、多くの院長がつまずくポイントをお伝えしておきます。それは、「本音を引き出すこと」そのものが目的になってしまうことです。本音を聞き出そうと前のめりになるほど、スタッフは詮索されているように感じ、かえって心を閉ざします。
面談の本当の目的は、本音を暴くことではなく、スタッフが安心して働き続けられる状態をつくることです。本音は、その安心の結果として自然に出てくるもの。順番を取り違えて「さあ本音を言って」と迫れば、面談は尋問に変わってしまいます。焦らず、まずは安心できる関係を先につくる。本音は追いかけるほど逃げ、待つほど近づいてきます。
もう一つ気をつけたいのは、一度の面談で関係を変えようと期待しすぎないことです。二年閉じていた扉が、一回の面談で開くことはありません。三回、四回と積み重ねるうちに、あるとき相手がふと本音を漏らす。その日まで、淡々と、けれど誠実に続けることが何よりの近道です。信頼は一度の名面談ではなく、平凡な面談の積み重ねの先にしか生まれません。
まとめ
スタッフ面談が雑談で終わり、本音が見えない——その原因は、あなたの聞き方が下手だからでも、スタッフが心を閉ざしているからでもありません。多くの場合、面談の目的がずれ、院長が話しすぎ、そして面談が行動につながっていない、という仕組みの問題です。
目的を一つに絞り、評価と切り離し、七割を聴きに回り、開いた質問を投げ、そして出た話を一つ行動に移す。この5つを順番に積み重ねれば、あなたの面談は「やっているだけ」の作業から、スタッフの定着を支える本当の対話へと変わっていきます。かつての私がそうだったように、あなたの医院にも必ずその変化は訪れます。
とはいえ、自分の面談のどこに穴があるのか、一人で客観的に見つけるのは簡単ではありません。スタッフとの関係性やこれまでの経緯によって、効く一手は医院ごとに違うからです。同じように人間関係に悩んできた者として、あなたの医院に合った面談の進め方を一緒に整理するお手伝いができればと思います。
まずは気持ちを言葉にするところから始めてみませんか。無料相談はこちらから、どうぞお気軽にお声がけください。
よくある質問
Q. スタッフ面談はどのくらいの頻度で行うべきですか?
A. 月1回、一人30分が目安です。回数より継続と、面談後の行動が重要です。
Q. 面談で「特にありません」しか返ってこないときは?
A. 質問を「はい/いいえ」で終わらない開いた形に変え、まず聴く姿勢に徹しましょう。
Q. 評価面談と本音を聴く面談は分けるべきですか?
A. 分けるのが理想です。評価が絡むと防御が働き、本音が出にくくなるためです。
Q. 院長が忙しく面談の時間が取れません。
A. 短くても定期実施が有効です。面談代行や外部の第三者面談を活用する方法もあります。
Q. 面談で聞いた不満は全部叶えないといけませんか?
A. すべては不要です。小さな一つを形にし「聞いて動く姿勢」を示すことが信頼につながります。
