先代から医院を継いでまだ数年。「スタッフが不満そうな顔をしていると、それだけで一日中気になってしまう」「スタッフ同士のトラブルも、自分がなんとかしなければと抱え込んでしまう」——そんなふうに、スタッフの機嫌や問題を自分ごとのように背負い込み、心がすり減っていませんか。
真面目で責任感の強い院長ほど、この抱え込みの罠にはまりやすいものです。そこで手がかりになるのが、アドラー心理学の「課題の分離」という考え方です。
課題の分離とは、ある出来事によって最終的に結果を引き受けるのが誰かを基準に、「自分の課題」と「相手の課題」を切り分けて考えるアドラー心理学の概念である。この考え方を知っているかどうかで、院長がスタッフの問題とどう向き合うかは大きく変わってきます。この記事では、承継2〜3年目の歯科医院院長に向けて、課題の分離を診療現場の具体的な場面に落とし込みながら解説していきます。
歯科医院を継いだ院長に「抱え込みすぎ」が起こりやすい理由
なぜ承継したばかりの院長は、スタッフの機嫌や問題まで自分の責任のように感じてしまうのでしょうか。前院長との比較にさらされる中で「自分が至らないからスタッフが不満を持つ」と思い込みやすく、本来はスタッフ自身の課題であるはずのことまで、院長が背負ってしまうからです。
「前院長ならうまくやれていたはず」というプレッシャー
先代の院長を長年見てきたスタッフの前では、どうしても比較の目にさらされます。「前院長はこんなことで揉めなかったのに」という周囲の空気を勝手に感じ取り、スタッフの些細な表情の変化まで自分の力不足の証拠のように受け止めてしまう。これは承継院長に非常によく見られる心理パターンです。
スタッフの表情ひとつで一喜一憂してしまう毎日
朝礼でスタッフの表情が硬いと「何か気に障ることを言っただろうか」と気になり、診療の合間もそのことが頭から離れない。院内が静かだと「空気が悪いのは自分のせいだろうか」と考えてしまう。こうした一喜一憂が積み重なると、院長自身の判断力や決断力までも鈍っていきます。
抱え込みが続くとどうなるか
実際に、PlumChanのワンネスコーチングにご参加いただいている院長先生からは、「スタッフの問題を自分が解決してあげなきゃと思って抱え込んでしまう」「スタッフの機嫌や反応が気になって、言いたいことが言えない」という声が非常に多く寄せられます。これは決して特殊な悩みではなく、承継院長の多くが通る道だと言えるでしょう。「自分が我慢すれば丸く収まる」という発想こそが、院長自身を一番苦しめているということに、まず気づく必要があります。
「課題の分離」とは何か ―アドラー心理学が教える境界線の引き方
課題の分離とは、具体的にどのような考え方なのでしょうか。ある出来事によって最終的に結果を引き受けるのが誰かを基準に「自分の課題」と「相手の課題」を切り分け、相手の課題には土足で踏み込みすぎないというアドラー心理学の考え方です。
「誰が最終的に結果を引き受けるか」で線を引く
課題の分離を判断する基準はシンプルです。「その選択の結果を、最終的に引き受けるのは誰か」を考えるだけです。たとえばスタッフが患者対応の勉強をするかしないかは、最終的にその結果(評価や成長)を引き受けるのはスタッフ本人です。一方で、院長がスタッフにどんな環境や機会を用意するかは、院長自身が引き受ける課題になります。
分離は「切り捨て」ではなく「境界線」
ここで誤解されやすいのが、課題の分離を「相手を突き放すこと」だと捉えてしまうことです。実際はまったく逆で、相手の課題に土足で踏み込まず、必要なときにはいつでも手を差し伸べられる状態を保つための境界線の引き方です。関心を持ち続けながらも、相手の課題を勝手に肩代わりしないという、いわば適切な距離感の技術だと言えます。
歯科医院の院長に置き換えるとどうなるか
課題の分離の指導実績を持つ丸山健氏(株式会社PIECE ONE代表取締役)は、住友生命保険、大同生命保険、きんでんなど、企業向けに信頼構築スキルの指導をのべ数百社に提供してきました。組織においてリーダーが部下の課題まで抱え込みすぎることは、業界を問わず起こりやすい現象であり、歯科医院の院長もその例外ではないというのが、多くの現場を見てきた実感だといいます。「相手のために」という気持ちが、いつの間にか「相手の代わりに」にすり替わっていないか、一度立ち止まって確認してみる価値があります。
院長がスタッフの問題を抱え込んでしまう3つの原因
なぜ課題の分離が頭でわかっていても、実際には抱え込んでしまうのでしょうか。背景には「院長=最終責任者という役割意識」「先代との比較への恐れ」「相談できる相手がいない孤独」という3つの原因が重なっているからです。
原因1: 「院長だから自分が何とかしなければ」という役割意識
歯科医院という小さな組織の中で、院長は経営者であり臨床の責任者でもあります。この「すべての責任は自分にある」という役割意識が強すぎると、スタッフ間の人間関係の行き違いや、スタッフ個人のモチベーションの浮き沈みまで、すべて自分が解決すべき課題だと錯覚してしまいます。
原因2: 前院長と比較される恐怖心
「先代の頃はこうだった」と言われることへの恐れは、承継院長にとって想像以上に大きなプレッシャーです。スタッフに何か指摘されるたびに「自分のやり方が間違っているのでは」と不安になり、本来スタッフ自身が向き合うべき課題まで、院長が先回りして肩代わりしてしまう構図が生まれます。
原因3: 相談できる相手がいない経営者の孤独
歯科医院の院長は、院内では唯一の経営者という立場です。スタッフに弱音を見せるわけにもいかず、同業の知人には内部事情を話しづらい。誰にも相談できないまま一人で抱え込む時間が長くなるほど、課題の境界線はどんどん曖昧になっていきます。
| 原因 | 抱え込みが起こる思考パターン |
|---|---|
| 役割意識の強さ | 「院長である自分がすべて解決すべきだ」 |
| 比較への恐怖心 | 「前院長より劣っていると思われたくない」 |
| 相談相手の不在 | 「誰にも話せないから、一人で処理するしかない」 |
こうして見ると、抱え込みは性格の問題ではなく、承継直後という立場が生み出す構造的な現象だとわかります。だからこそ、意識的に課題を分ける練習が必要になるのです。
課題の分離を実践するための3つの視点
課題の分離を日々の診療の中でどう実践すればよいのでしょうか。「これは誰の課題か問い直す」「感情と行動を分けて受け止める」「境界線を保ったまま関心は示す」という3つの視点を持つことで、抱え込みすぎずスタッフと向き合えるようになります。
視点1: 「これは誰の課題か」を問い直す習慣
スタッフの態度が気になったとき、反射的に「自分がどうにかしなければ」と考える前に、「この結果を最終的に引き受けるのは誰か」と一呼吸おいて問い直してみます。この一呼吸が、抱え込みの連鎖を断ち切る最初の一歩になります。
視点2: 感情に反応せず、行動だけを見る
スタッフの不機嫌そうな表情や素っ気ない返事に触れると、院長はつい「自分が何か悪いことをしたのでは」と感情面で反応してしまいます。しかし、スタッフの機嫌そのものはスタッフ自身の課題です。院長が見るべきは、機嫌ではなく実際の業務行動だという線引きを意識することが大切です。
視点3: 見捨てるのではなく、境界線を保ったまま関心を持ち続ける
課題を分離するというのは、スタッフを放置することではありません。「困っていることはある?」「何か力になれることがあれば言ってね」と関心と扉は開いたままにしながら、最終的な判断や感情の処理まで先回りして代行しないという姿勢です。
| 場面 | 院長の課題(自分がやるべきこと) | スタッフの課題(本人に委ねること) |
|---|---|---|
| 患者対応でミスをした | フィードバックの機会と学べる環境を用意する | ミスをどう受け止め、次にどう活かすか |
| スタッフ同士がぎくしゃくしている | 話し合いの場を整える、必要なら仲介する | 相手とどう関係を修復するか |
| 不機嫌な態度をとられた | 業務に支障が出ていないか確認する | 自分の機嫌をどう自己管理するか |
私自身も、以前部下との関係で「自分が何とかしなければ」と何でも抱え込み、相手の顔色をうかがいすぎて言いたいことが言えなくなった経験があります。課題を分けて考えるようになってはじめて、相手を大切にしながらも自分の心を守れることに気づきました。この感覚は、院長先生方が抱えている悩みとも重なる部分が多いのではないかと思います。
歯科医院の現場で使える「課題の分離」具体例とセリフ
実際の診療現場では、課題の分離をどのようなセリフに落とし込めばよいのでしょうか。「困っていることはある?」と関心を示しつつ、最終判断や感情の処理はスタッフ自身に委ねる言い方に変えることで、抱え込まずに関わることができます。
遅刻や身だしなみが気になるとき
抱え込みがちな院長は「言ったら気まずくなるかもしれない」と考え、指摘を先延ばしにしがちです。ここで有効なのは、「遅刻したことをどう思う?」ではなく、「診療開始に間に合わないと、他のスタッフや患者さんに影響が出るから、〇時までに準備をお願いしたい」と、事実と院長として求める行動だけを伝える言い方です。相手がそれをどう受け止めるかはスタッフの課題であり、院長がそこまでコントロールする必要はありません。
スタッフ同士がぎくしゃくしているとき
「二人の間で何かあった?仲良くしてね」と院長が仲直りさせようとするのは、実はスタッフ本人たちの課題への過干渉になりがちです。代わりに「業務に支障が出るようなら教えてほしい。話し合いの場が必要なら私が調整する」と伝え、関係修復そのものは本人たちに委ねるほうが、結果的に長続きする解決につながります。
患者対応でミスをして落ち込んでいるとき
「大丈夫?気にしないで」とだけ声をかけると、院長が相手の感情まで引き受けているサインです。「ミスの原因を一緒に確認しよう。落ち込む気持ちは自然なことだけど、それをどう次に活かすかはあなた次第だからね」というように、フォローする部分と本人に委ねる部分を分けて伝えます。
不機嫌な態度をとられたとき
これがもっとも院長を消耗させる場面です。「私が何かしたかな」とスタッフの機嫌の理由を推測し続けるのではなく、「今日は少し様子が違うようだけど、業務で何か困っていることはある?」と一度だけ確認し、それ以上は詮索しないという線を引きます。機嫌の管理は本人の課題であり、院長が肩代わりできるものでも、すべきものでもありません。
一人で抱え込まないための仕組みづくり
課題の分離を頭で理解しても、一人で実践し続けるのは難しいのではないでしょうか。独学では感情的に反応してしまう自分の癖に気づきにくいため、第三者の視点を借りながら伝え方・聴き方を練習できる場を持つことが、抱え込み体質から抜け出す近道です。
自己流だと「わかっていてもできない」で終わりやすい理由
課題の分離という考え方自体は、書籍やインターネットでも学ぶことができます。しかし実際の診療現場では、感情が動いた瞬間に反射的に踏み込んでしまう癖がなかなか抜けません。頭で理解していることと、実際の場面でとっさに実践できることの間には、大きな距離があります。
ワンネスコーチングで扱う「課題の分離」の練習
PlumChanが提供するワンネスコーチングは、院長自身の伝え方・聴き方を変えることを目的とした、全6回・各2時間・6ヶ月間の少人数制コーチング研修です。アドラー心理学に基づいた考え方を土台に、課題の分離をはじめとする視点を、実際の院内の場面に当てはめながら少しずつ練習していきます。講師を務める丸山健氏は、企業向けに信頼構築スキルの指導をのべ数百社に提供してきた実績を持ち、歯科医院という組織特有の距離の近さや院長という立場の孤独にも理解のあるコーチングを行っています。
半年かけて習慣化するプロセス
課題の分離は、一度学んだら終わりというものではなく、日々の小さな場面で繰り返し実践して初めて習慣になっていきます。6ヶ月という期間をかけるのは、頭での理解を実際の診療現場での行動に落とし込み、無理なく定着させるためです。一人で抱え込む癖を変えるには、一人で頑張りすぎないことが一番の近道だと言えるかもしれません。
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よくある質問
Q1. 課題の分離とスタッフを突き放すことはどう違いますか。
課題の分離は関心を持ち続けたまま境界線を引く考え方で、突き放すこととは異なります。
Q2. 課題の分離を実践するとスタッフとの距離が遠くなりませんか。
適切な距離を保つことで、かえって信頼関係が築きやすくなるケースが多いです。
Q3. アドラー心理学を学んだことがなくても理解できますか。
専門知識がなくても、具体的な場面に沿って少しずつ理解を深められます。
Q4. 一人で本を読んで実践するのとコーチングを受けるのは何が違いますか。
第三者の視点で自分の癖に気づける点が、独学との大きな違いです。
Q5. ワンネスコーチングはどのような院長に向いていますか。
スタッフの機嫌や問題を抱え込みやすい、承継期の院長に向いています。
まとめ:一人で抱え込まなくていい
スタッフの機嫌や問題を自分ごととして抱え込んでしまうのは、院長としての責任感の強さの裏返しでもあります。しかし、その責任感が「相手の課題まで肩代わりする」という形で表れてしまうと、院長自身が消耗し、結果としてスタッフとの関係もぎくしゃくしてしまいます。
アドラー心理学の課題の分離という考え方は、相手を見捨てるためのものではなく、関心を持ち続けながらも適切な距離を保つための技術です。「これは誰の課題か」と一呼吸おいて問い直すだけでも、日々のコミュニケーションは少しずつ変わっていきます。
とはいえ、感情が動く瞬間にとっさに実践するのは簡単なことではありません。一人で抱え込まずに、第三者と一緒に自分の伝え方・聴き方を練習していくことが、結果的に一番の近道になることもあります。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
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