「この医院で、私はこの先どうなるんですか」に答えられますか
歯科衛生士や歯科助手の採用面接で、「この医院で長く働きたいです」と目を輝かせていた新人スタッフが、3年目を迎える頃には表情が曇り、気づけば退職届を出している。そんな経験はないでしょうか。「頑張っても、この先どうなるのか見えない」というスタッフの不安は、給与や休日以上に離職の引き金になります。
目標設定面談とは、スタッフ一人ひとりの半年〜1年後の到達目標と、その先のキャリアの方向性を、院長と本人が一緒にすり合わせる面談のことです。単なる業務目標の確認ではなく、「この医院でどう成長していきたいか」という本人の意思を引き出し、医院の方針とつなげていく対話を指します。
私自身も、医院を承継したばかりの院長から「スタッフが何を考えているのか分からない」「評価面談はしているのに、なぜか本音が出てこない」という相談を数えきれないほど受けてきました。承継2〜3年目の院長は、前院長の代からのやり方を踏襲しつつも、自分なりの色を出したいというジレンマを抱えています。この記事では、目標設定面談がなぜ今のあなたの医院に必要なのか、そして実際にどう進めればスタッフの本音とキャリアの方向性を引き出せるのかを、具体的なステップでお伝えします。
なぜ「目標が見えない歯科医院」からスタッフが離れていくのか
厚生労働省の雇用動向調査でも、離職理由の上位には常に「職場の人間関係」と並んで「将来性が見えない」ことが挙げられています。歯科医院の現場でも同じことが起きています。歯科衛生士や歯科助手は、専門職でありながらキャリアの選択肢が院内で見えにくい職種です。昇給や役職の仕組みが曖昧なまま日々の業務だけが積み重なると、スタッフは「この医院にいても、自分は成長できないのではないか」という漠然とした不安を抱えるようになります。
目標が見えない職場は、スタッフにとって「出口の見えないトンネル」のような場所になってしまいます。歯科衛生士や歯科助手は、資格を活かして転職しやすい専門職でもあります。他院と比較して「ここにいる意味」が見えなくなった瞬間、スタッフの気持ちは静かに医院から離れていってしまうのです。
問題の本質は、院長が悪気なく「今の業務を回すこと」に意識が向きすぎてしまい、スタッフ一人ひとりの数年後の姿を一緒に描く時間を後回しにしていることにあります。私が支援したある医院では、院長は毎月きちんと評価面談を行っていましたが、それは「できたこと・できなかったこと」の確認だけで終わっており、「この先どうなりたいか」という未来の話は一度も出てきていませんでした。評価と目標設定は、似ているようでまったく別の対話です。
さらに、承継2〜3年目という時期特有の難しさもあります。前院長の時代から働くスタッフは、これまでのやり方に慣れているぶん、新しい院長が「あなたの目標は?」と問いかけても、最初は戸惑ったり、身構えたりすることが少なくありません。「今さら何を聞かれるのだろう」という警戒心を解くところから、目標設定面談は始まります。だからこそ、いきなり本格的な制度を導入するのではなく、小さな対話の積み重ねから始めることが、承継期の医院にはとりわけ大切になります。
目標設定面談がうまくいかない3つの原因
目標設定面談を導入しても、多くの医院で形骸化してしまうのには共通する原因があります。ここでは代表的な3つを見ていきましょう。
原因1:目の前の業務に追われ、将来像を描く余裕がない
診療時間の合間にわずかな時間を確保して行う面談では、どうしても「今週のシフト」「先週のミス」といった目先の話題に終始しがちです。目の前の忙しさは、スタッフの未来を語る時間を静かに奪っていきます。本音で1on1の対話をする仕組みそのものが整っていない医院も多く、その土台づくりから始める必要がある場合は1on1ミーティングの導入方法【7ステップ】が参考になります。
原因2:評価面談と目標設定面談が混同されている
「頑張った・頑張っていない」を判定する評価面談の延長で目標を話そうとすると、スタッフはどうしても評価されることへの緊張感が先に立ち、本音のキャリア希望を口にしにくくなります。目標設定は「これからどうしたいか」を一緒に考える前向きな対話であり、評価とは切り分けて設計することが大切です。人事評価の仕組みそのものに課題がある場合は歯科医院の人事評価制度の作り方|二代目院長の5ステップもあわせてご覧ください。
原因3:院長自身がキャリアパスのモデルを提示できていない
歯科衛生士や歯科助手からすると、「この医院で何年働けば、どんな役割やスキルが身につくのか」というモデルケースが見えないと、目標を立てようにも立てようがありません。院長がキャリアパスの選択肢(臨床スキルの専門性を高める道、後輩育成やチーフとしてマネジメントに関わる道など)をあらかじめ用意しておくことが出発点になります。
目標設定面談を機能させる進め方【3ステップ】
ここからは、実際に目標設定面談を機能させるための具体的な進め方をお伝えします。
ステップ1:個人目標とクリニックの理念をつなげる
いきなり「あなたの目標は?」と聞いても、多くのスタッフは戸惑ってしまいます。まずは医院として大切にしている理念や方針を共有した上で、「その中であなたはどんな役割を担いたいか」という順番で問いかけると、本人の言葉が出やすくなります。理念と個人目標がつながった瞬間、スタッフの目の色が変わる瞬間を、私は何度も見てきました。「言われたことをやる」から「自分ごととして考える」への変化は、この最初の問いかけの順番一つで大きく変わってきます。
ステップ2:短期・中期・長期で目標を分けて設計する
半年後の到達目標(短期)、1〜2年後に担ってほしい役割(中期)、3年以上先のキャリアの方向性(長期)という3つの時間軸で目標を整理すると、日々の業務と将来像のつながりが本人にも見えやすくなります。表にすると次のようなイメージです。
| 時間軸 | 内容の例 | 面談での問いかけ |
|---|---|---|
| 短期(半年) | 特定の処置の介助を一人で完結できる | 「次の半年で挑戦したいことは?」 |
| 中期(1〜2年) | 新人指導やチーフ業務の一部を担う | 「後輩に教える立場になったらどう感じる?」 |
| 長期(3年以上) | 専門分野の認定資格取得、または管理職 | 「5年後、この医院でどんな自分でいたい?」 |
ステップ3:面談の頻度とフォロー方法を決める
目標設定は年1回立てて終わりにせず、四半期ごとに簡単な振り返りの時間を設けることで形骸化を防げます。忙しい診療の合間でも、15分程度の短い対話を積み重ねる方が、年に一度の長い面談よりも本音が引き出しやすいというのが私の実感です。
フォローの場面では、達成できたことだけでなく、達成できなかったことについても本人と一緒に理由を振り返ることが重要です。「できなかった」という事実だけを指摘してしまうと、次の面談で本音を話してもらいにくくなります。「なぜできなかったのか」を一緒に考える姿勢こそが、スタッフに「見てもらえている」という安心感を与えます。ある医院では、四半期ごとの5分間チェックインを導入しただけで、面談への抵抗感が明らかに和らいだという声もありました。制度を大きく変えなくても、対話の頻度を上げるだけで関係性は変わっていきます。
職種別・キャリアパスの描き方の具体例
歯科衛生士、歯科助手、受付スタッフでは、それぞれ描けるキャリアの形が異なります。「一律の目標」ではなく「その人だからこその目標」を一緒に見つけることが、面談の質を大きく左右します。
歯科衛生士であれば、予防歯科の専門性を高める道、訪問診療に関わる道、後輩育成を担うチーフの道など複数の方向性があります。歯科助手であれば、受付業務や在庫管理などマネジメント寄りの役割に広がっていくケースも多く見られます。受付スタッフは、患者対応力を武器に医院のブランディングや広報的な役割を担うようになることもあります。同じ「受付」という肩書きでも、電話対応が得意な人、SNSでの情報発信に関心がある人など、本人の強みによって伸ばせる方向はさまざまです。院長がその強みに気づき、言葉にして伝えるだけでも、スタッフの働き方への向き合い方は大きく変わっていきます。ある医院では、当初は補助業務が中心だった歯科助手が、目標設定面談をきっかけに在庫管理と新人教育を任されるようになり、「自分の役割が見えたことで、仕事が楽しくなった」と話してくれました。役割が明確になったことで自信を持って後輩に接するようになり、その姿を見た院長も「もっと早くこの対話をしておけばよかった」と振り返っていたのが印象的です。歯科衛生士本人の本音をより深く引き出したい場合は歯科衛生士との面談で本音を引き出す方法とコツもあわせて参考にしてみてください。
今日からできる具体アクションとまとめ
目標設定面談は、一度に完璧な仕組みを作ろうとする必要はありません。まずは今週、スタッフ一人に「半年後、どんな自分でいたい?」とだけ聞いてみることから始めてみてください。それだけでも、これまで見えていなかった本人の希望や不安が見えてくるはずです。
私自身、承継したばかりの頃は「スタッフのキャリアまで考える余裕はない」と感じていた時期がありました。目の前の診療、経営、スタッフ対応に追われる中で、一人ひとりの数年後を考える時間などとても取れないと思い込んでいたのです。ですが、目の前の業務だけでなく一人ひとりの未来に目を向けることが、結果的にスタッフの定着と医院の安定につながっていくことを、多くの院長先生方と関わる中で実感しています。スタッフの未来を一緒に描くことは、院長自身の医院経営の未来を描くことでもあるのです。離職防止という観点からは若手スタッフの早期離職を防ぐ5つの方法も参考になりますので、ぜひあわせてお読みください。
目標設定面談は、特別な研修を受けなければできないものではありません。ですが、日々の忙しさの中で一人で継続していくのは、想像以上に根気のいる作業です。「聞き方が合っているのか分からない」「本音を引き出せている自信がない」と感じたときこそ、一度立ち止まって第三者に相談してみる価値があります。一人で仕組みを作ろうとせず、第三者の視点を入れることで、面談の質は大きく変わります。スタッフとの目標設定面談の進め方や、面談そのものの設計にお悩みでしたら、まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
💡 スタッフの本音、聞けていますか?
よくある質問
Q1. 目標設定面談は評価面談と何が違うのですか?
評価面談が「これまでの成果を判定する」対話であるのに対し、目標設定面談は「これからどうしたいか」を本人と一緒に考える前向きな対話です。両者は分けて設計することで、それぞれの目的がぶれずに機能します。
Q2. スタッフが多忙で面談の時間が確保できません
四半期ごとに15分程度の短い対話を積み重ねる方法がおすすめです。長時間の面談を年1回行うより、短い対話を定期的に重ねる方が本音を引き出しやすくなります。
Q3. 目標を立てても、本人がやる気を維持できません
目標を立てっぱなしにせず、定期的な振り返りとフィードバックを行うことが継続の鍵です。小さな達成を院長が言葉にして承認することで、モチベーションが維持されやすくなります。
Q4. キャリアパスの選択肢が院内に少ない場合はどうすればいいですか?
臨床スキルを深める道だけでなく、後輩育成やチーム運営に関わる道など、役職に限らない役割の広がりを用意することで選択肢を作ることができます。
Q5. 院長一人で目標設定面談を運用するのは難しいと感じます
多くの院長先生が同じ壁にぶつかります。第三者が面談に入ることで、スタッフの本音が引き出しやすくなるケースも多くあります。まずは無料体験説明会でご相談ください。
一人で抱え込まず、まずはお話を聞かせてください


