「コーチングが大事だとは聞くけれど、具体的に何をどう話せばいいのか分からない」——そう感じている院長は少なくありません。研修でコーチングの理論を学んでも、実際の診療の合間にスタッフとどう会話すればいいのか、具体的な言葉が浮かばないという声をよく聞きます。
コーチングは才能ではなく、練習によって身につけられる「技術」です。今回は、歯科医院の院長が明日から使える、コーチングスキルの具体的な身につけ方と、スタッフのやる気を引き出す質問のフレーズをお伝えします。特別なセミナーや資格がなくても、日々の会話の中で意識するポイントを変えるだけで、驚くほど関係性は変わっていきます。
私自身も、経営者やリーダーの方々にコーチングをお伝えする中で、「知識としては知っているけれど、実際の会話で使えない」という壁にぶつかる方を数多く見てきました。ある院長は研修直後には意気込んで実践しようとするものの、1ヶ月も経つと元の指示型の会話に戻ってしまうと話していました。これは意志の弱さではなく、練習量が足りないだけなのです。今回はその壁を超えるための、実践的なステップをご紹介します。
なぜ「知っているのに使えない」が起きるのか
コーチング研修を受けた院長の多くは、「傾聴」「質問」「承認」というキーワードは知っています。しかし、実際のスタッフとの会話でそれを使おうとすると、つい指示や説教になってしまうという壁にぶつかります。
ある歯科医院の院長は、研修で学んだ「オープンクエスチョン」を意識して「どう思う?」とスタッフに聞いたところ、「特にありません」という一言で会話が終わってしまったと話していました。「どう思う?」という質問ひとつでも、聞き方とタイミングを間違えると、逆にスタッフを萎縮させてしまいます。忙しい診療の合間に急に問いかけられても、スタッフは何を答えればいいのか分からず戸惑ってしまいます。質問の内容だけでなく、落ち着いて話せるタイミングを選ぶことも、コーチングの重要な要素のひとつです。
これは特別なことではなく、コーチングスキルの土台となる「聞く姿勢」ができていないまま質問のテクニックだけを使おうとすると、多くの人が陥る典型的なつまずきです。
人材育成の研究分野でも、コーチングの効果が最も出るのは「質問のテクニック」よりも「相手の話をどれだけ受け止めているか」という傾聴の質にあると言われています。つまり、どんなに優れた質問フレーズを覚えても、聞く姿勢が伴っていなければスタッフの心には届きません。
歯科医院の院長は臨床の現場で日々「正確な診断と迅速な判断」を求められる職業です。この習慣が診療室の外、つまりスタッフとの会話の場面にもそのまま持ち込まれてしまうことが、コーチングがうまく機能しない最大の要因になっています。診断的に相手の話を聞いてしまうと、スタッフは「評価されている」と感じ、本音を話すことをためらってしまうのです。
この切り替えは意識するだけでは難しく、「診療モードのスイッチ」を一度オフにする時間を意識的に作ることが有効です。たとえば面談の最初の1分は診療の話を一切せず、天気や休憩時間の過ごし方など、軽い雑談から始めることで、院長自身の頭も切り替わりやすくなります。
コーチングスキルが身につかない3つの原因
原因1|「答えを教えたい」という指導者の癖が抜けない
歯科医院の院長の多くは臨床で高い技術を持ち、後輩に教えることに慣れています。そのため無意識に「正解を教える」姿勢が出てしまい、スタッフが自分で考える前に答えを与えてしまいがちです。
これは決して悪いことではありません。新人スタッフにとっては、的確な指導があるからこそ早く一人前になれます。しかし、ある程度経験を積んだスタッフに対して同じ関わり方を続けると、「自分で考えても、どうせ院長が答えを出してくれる」という受け身の姿勢を助長してしまいます。指導者としての癖が強い院長ほど、この切り替えのタイミングを見極める意識が必要です。
臨床の現場で正確さやスピードを評価されてきたキャリアが長いほど、この切り替えには時間がかかる傾向があります。焦らず、まずは「答えを言いたくなった瞬間に、一呼吸置く」という小さな習慣から始めてみると、少しずつ関わり方が変化していきます。
原因2|傾聴の「型」を知らないまま質問だけ真似している
コーチングの基本は「聴く7割、話す3割」と言われますが、多くの院長は聴く型を知らないまま質問のフレーズだけを表面的に真似してしまいます。相手の言葉を受け止めずに次の質問に移ると、スタッフは「聞いてもらえていない」と感じます。
傾聴の型とは、単に黙って聞くことではありません。相手が話した内容を一度、自分の言葉で「つまり〇〇ということだね」と要約して返す「バックトラッキング」や、相手の感情に「それは大変だったね」と言葉を添える「感情への反応」など、いくつかの具体的な技術の組み合わせです。これらを知らないまま質問だけを重ねると、尋問のような印象を与えてしまうことがあります。
原因3|実践する場が診療の合間しかない
日々の診療に追われる中では、じっくり対話する時間を確保しにくいのが現実です。1対1で話す機会自体が少なければ、コーチングのスキルを実践して磨く場も限られてしまいます。定期的な対話の場をどう設計するかは、歯科医院のスタッフ面談1on1完全ガイド|質問例と進め方も参考になります。
コーチングスキルを身につける具体的な方法
ステップ1|「聴く」を先に鍛える
質問のテクニックより先に、相手の話を最後まで遮らずに聴く練習をしましょう。具体的には、スタッフが話し終えるまで自分の意見を挟まず、「なるほど、それでどうなったの?」と続きを促す一言を挟むだけで十分です。質問力より先に、沈黙に耐える力を鍛えることが上達の近道です。
診療の合間の何気ない会話でも、この練習は可能です。スタッフが話し始めたら、頭の中で反論や助言を組み立てるのをいったん止め、「相手が今、何を伝えたいのか」だけに意識を向けてみてください。最初は違和感があるかもしれませんが、続けるうちに自然とできるようになります。
ステップ2|「オープンクエスチョン」を3つのパターンで覚える
とっさに言葉が出ないという方には、次の3パターンを丸ごと覚えることをおすすめします。「今、一番気になっていることは?」「それについて、どうしていきたい?」「そのために、何から始められそう?」。この3つを順番に使うだけで、自然な対話の流れが作れます。
この3パターンの優れている点は、順番に使うだけで「現状把握→理想の確認→行動への落とし込み」という、コーチングの基本的な流れをそのまま再現できることです。暗記して繰り返し使ううちに、自分なりの言い回しにアレンジできるようになり、最終的には意識せずとも自然に出てくるようになります。まずは型どおりに使うことを恐れず、実践の回数を重ねてみてください。
ステップ3|質問した後は「間」を大切にする
質問を投げかけた直後の沈黙に耐えられず、院長側から答えを補足してしまうケースは非常によく見られます。しかし、その数秒の沈黙こそがスタッフが自分の頭で考えている時間です。焦って助け舟を出すと、スタッフは「自分で考えなくても院長が答えをくれる」と学習してしまいます。
体感で5秒、実際には10秒程度、口を挟まずに待ってみましょう。最初はとても長く感じますが、慣れてくると、その沈黙の後にスタッフ自身の言葉で答えが返ってくる瞬間を何度も経験できるようになります。沈黙を怖がらない院長ほど、スタッフから本音を引き出せます。
ステップ4|承認は「結果」ではなく「行動」に向ける
「よくやったね」という結果承認だけでなく、「今日、患者さんの話をじっくり聞いていたね」というように、行動そのものに気づいて言葉にすることがコーチングにおける承認の基本です。行動承認は日々の観察から生まれるため、日常的なスタッフとの関わりの質そのものが問われます。本音を引き出す面談の伝え方については歯科医院の評価面談|本音を引き出す伝え方でも詳しく解説しています。
今日からできる具体的なアクション
まずは今日、スタッフとの会話の中で一度だけ「それでどう思う?」と聞いて、答えが返ってくるまで黙って待ってみてください。沈黙が気まずくても、自分から助け舟を出さずに待つことがコーチングの第一歩です。
また、面談の場でスタッフが本音を話してくれないと感じている場合は、質問のテクニック以前に安心して話せる関係性ができていない可能性があります。歯科医院スタッフ面談で本音が出ない理由と対策も合わせてご確認ください。
まとめ|コーチングは今日の一言から始められます
コーチングスキルは、特別な才能ではなく、聴く姿勢と質問の型を練習すれば誰でも身につけられる技術です。完璧な質問を探すより先に、まずは相手の話を最後まで聴くことから始めてください。指導者としての癖を手放し、小さな会話の積み重ねからスタッフとの信頼関係を築いていきましょう。
コーチングスキルは、一朝一夕で完成するものではなく、日々の小さな会話の積み重ねによって少しずつ磨かれていくものです。うまくいかない日があっても、それは失敗ではなく上達の途中にすぎません。焦らず、スタッフとの一つひとつの対話を大切にしていってください。
臨床の技術を磨いてきたのと同じように、コーチングというコミュニケーションの技術も、意識的な練習を重ねることで着実に上達していきます。今日の診療の合間の一言から、ぜひ試してみてください。
一人で試行錯誤を続けるのは大変なことです。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
💡 コーチングを深く学びたい方へ
よくある質問
Q1. コーチングとティーチングはどう使い分ければいいですか?
新人スタッフで知識や手順がまだ身についていない場合はティーチングが有効です。一方、ある程度経験があり自分で考える力を持つスタッフには、答えを教えるのではなく問いかけるコーチングが効果的です。相手の習熟度によって使い分けることが大切です。
Q2. スタッフが「特にありません」としか答えない場合はどうすればいいですか?
質問が抽象的すぎる可能性があります。「最近気になっていることは?」ではなく「今週の診療で少し困ったことはあった?」のように、具体的な場面を絞った質問に変えると答えやすくなります。
Q3. コーチングスキルはどのくらいの期間で身につきますか?
個人差はありますが、日々の会話で意識的に実践すれば、3ヶ月ほどで「聴く姿勢」の変化をスタッフ自身が感じ始めることが多いです。焦らず小さな実践を積み重ねることが上達の鍵です。
Q4. 忙しい診療の合間でもコーチングは実践できますか?
はい。長時間の面談でなくても、5分程度の立ち話の中で「それでどう思う?」と一言添えるだけでも、コーチング的な関わりは実践できます。時間の長さより、聴く姿勢の質が重要です。
Q5. 院長自身がコーチングを学ぶには、どんな方法がありますか?
書籍や研修で理論を学ぶことに加え、実際にコーチングを受けてみることで「受け手の感覚」を体感するのが最も効果的です。自分が受けた経験があると、スタッフへの関わり方も自然と変わっていきます。
Q6. コーチングスキルが身についたかどうかは、何を基準に判断すればいいですか?
分かりやすい基準のひとつは、スタッフから自発的な提案や相談が増えたかどうかです。「こうしてもいいですか」という許可を求める発言から、「こう考えているのですが、どう思いますか」という自分の意見を伴う発言に変化してきたら、コーチング的な関わりが根づき始めているサインといえます。
一人で抱え込まず、まずはお話を聞かせてください


