歯科医院承継でスタッフがついてこない原因と対処法

歯科医院を継いだその日から、院長という肩書きは手に入っても、スタッフの心まで自動的に引き継がれるわけではありません。「先代の頃はもっと和気あいあいとしていた」「新院長になってから雰囲気が変わった」——そんな声が耳に入るたび、胸が締め付けられるような思いをしている院長先生は少なくありません。

歯科医院の承継後にスタッフがついてこない状態とは、先代との比較・信頼関係の未構築・コミュニケーション不足が重なって起こる、承継期特有の組織課題である。

この定義が示すとおり、スタッフがついてこないのは院長個人の能力不足のせいではなく、承継という特殊なフェーズで誰にでも起こりうる構造的な問題です。まずはその事実を知ることが、解決への第一歩になります。

目次

承継後にスタッフがついてこない苦しさは、あなただけのものではありません

事業承継を終えたばかりの院長先生から、私たちPlumChanにはよくこんな相談が寄せられます。「スタッフの顔色をうかがってしまう」「指示を出しても以前ほど動いてもらえない」「辞められたら困るから強く言えない」。真面目で責任感が強い方ほど、この苦しさを一人で抱え込みがちです。

30代後半から40代前半で承継された院長先生は、経営者としても中堅世代としても責任を求められる立場にあります。院内では「先代の息子さん・娘さん」という目で見られながら、対外的には一人前の経営者として振る舞うことを求められる。この板挟みの状態が、日々のストレスを静かに積み重ねていきます。診療の技術には自信があっても、組織づくりや人間関係のマネジメントは歯科医師の養成課程では十分に教わる機会がなく、手探りで対応せざるを得ないという構造的な事情も背景にあります。

「先代と比較される」院長特有の孤独

2代目院長の多くが直面するのが、先代との比較です。診療スタイルや経営方針を少し変えただけでも「前の院長はこうだった」と言われてしまう。比較されること自体は承継期にはある程度避けられない現象ですが、それを毎日突きつけられる院長の孤独は、経験した人にしか分からないものです。比べられる痛みは、あなたの努力不足の証拠ではありません。

真面目に頑張るほど空回りしてしまう落とし穴

スタッフに嫌われたくない、辞められたくないという思いが強いほど、院長は言いたいことを飲み込み、我慢を重ねてしまいます。しかしその我慢は多くの場合スタッフには伝わらず、むしろ「何を考えているか分からない院長」という印象を強めてしまうことがあります。私自身も、組織の中で相手に合わせすぎるあまり自分の考えを伝えられず、かえって信頼関係が遠のいてしまった経験があります。頑張り方の方向を少し変えるだけで、状況は大きく変わっていきます。

なぜスタッフはついてこなくなるのか、問題の本質を知る

対処法を考える前に、まず理解しておきたいのが「スタッフがついてこない」という現象の本質です。これは単なる相性の問題ではなく、組織づくりのプロセスにおける必然的なステップだと捉えることが重要です。

スタッフが見ているのは「院長の実力」より「変化への納得感」

歯科衛生士や歯科助手といったスタッフの多くは、新院長の技術力や経営手腕そのものよりも、「なぜ変わるのか」「自分たちはどう扱われるのか」という納得感を重視しています。承継後にルールや診療方針を変える際、その理由が十分に共有されていないと、スタッフは変化そのものよりも「説明されなかったこと」に不信感を抱きます。

承継期は組織にとって”リセット”のタイミングでもある

事業承継は経営者の交代であると同時に、組織文化が一度リセットされるタイミングでもあります。先代の時代に築かれた暗黙のルールや人間関係のバランスが崩れ、スタッフ側も無意識に不安を感じています。ここでリーダーシップを発揮して新しい信頼関係構築のプロセスを丁寧に踏むかどうかが、その後の組織づくりを大きく左右します。PlumChanがこれまで支援してきた医科・歯科医院の事例でも、承継直後の3〜6か月間にスタッフとの対話量を意識的に増やした医院ほど、その後の離職率が落ち着く傾向が見られました。問題の本質は「相性」ではなく「対話の設計」にあります。

スタッフがついてこなくなる3つの原因

ここからは、承継後にスタッフがついてこなくなる具体的な原因を3つに整理してご説明します。原因を正しく知ることで、対処法もぶれることなく実行できるようになります。

原因1:先代との比較によるアイデンティティの揺らぎ

新院長自身が「先代のようにできていないのではないか」という不安を抱えていると、その迷いは言葉や態度の端々からスタッフに伝わります。院長が自信なさげにしていると、スタッフも「この人についていって大丈夫だろうか」という不安を強めてしまい、悪循環に陥ります。

原因2:信頼関係構築のプロセスを飛ばしてしまう

先代がすでに築いていた信頼関係を、そのまま自分も引き継げると思い込んでしまうケースは非常に多く見られます。しかし信頼関係は人と人との積み重ねであり、院長が代わればゼロからとは言わないまでも、改めて構築し直す必要があります。このプロセスを飛ばして「自分はもう院長なのだから従ってほしい」という姿勢で臨むと、スタッフとの距離はかえって広がってしまいます。

原因3:コミュニケーション不足による心理的安全性の低下

日々の診療に追われる中で、スタッフ一人ひとりとじっくり話す時間を確保できていない歯科医院は少なくありません。忙しさを理由にスタッフ面談や日常的な声かけを後回しにすると、スタッフは「自分の意見は聞いてもらえない」と感じ、心理的安全性が低下していきます。心理的安全性が失われた職場では、些細な不満が相談されないまま蓄積し、ある日突然の離職という形で表面化することが少なくありません。実際に、開業医の先生方から「辞めるとは思っていなかったスタッフが、ある日突然退職届を出してきた」というご相談を受けることが、私たちPlumChanでも珍しくありません。沈黙は同意ではなく、諦めのサインであることが多いのです。

ある地方都市の歯科医院では、承継から1年ほどでベテランの歯科衛生士が立て続けに2名退職するという出来事がありました。院長先生は「特にトラブルはなかったはず」と困惑していましたが、退職後にスタッフへ丁寧にヒアリングを行ったところ、「新院長がいつも忙しそうで、相談するタイミングが見つからなかった」という声が複数上がってきました。原因1から3までは、実は独立した問題ではなく、互いに絡み合いながらスタッフの気持ちを少しずつ職場から遠ざけていくのです。

今日からできる対処法、信頼関係を取り戻すステップ

原因が分かれば、次は具体的な対処法です。ここでは、明日からでも実践できる3つのステップをご紹介します。特別なスキルがなくても、意識と行動を少し変えるだけで組織の空気は変わり始めます。

スタッフ面談で「聞く」習慣をつくる

まず取り組んでいただきたいのが、定期的なスタッフ面談です。ポイントは、院長が「話す」のではなく「聞く」場にすることです。業務上の指示や評価の話だけでなく、「最近どうですか」「困っていることはありますか」といった開かれた問いかけから始めると、スタッフは徐々に本音を話しやすくなります。以下は、承継期における面談頻度の目安です。

承継からの経過期間推奨される面談頻度面談で意識したいこと
承継直後〜半年月1回程度個々の不安を丁寧に聞き取る
半年〜1年1〜2か月に1回変化への納得感を確認する
1年以降(安定期)3か月に1回程度キャリアや役割の希望を聞く

先代との違いを「強み」として伝えるリーダーシップ

先代と比較されること自体を否定するのではなく、「先代は先代、自分には自分にしかできないやり方がある」と率直にスタッフへ伝えることも有効です。無理に先代の真似をするのではなく、自分らしいリーダーシップの形を言葉にして共有することで、スタッフも新院長の方針を理解しやすくなります。私自身も、かつて先任者と比較され続けた時期がありましたが、違いを隠すのではなく言葉にして伝えるようになってから、周囲の受け止め方が変わっていく実感がありました。

院内マネジメントの土台となる心理的安全性をつくる

スタッフが安心して意見を言える環境を整えることは、院内マネジメントの土台になります。ミーティングで意見を否定せずまず受け止める、失敗を責めるのではなく次にどう活かすかを一緒に考える、こうした小さな積み重ねが心理的安全性を育てます。心理的安全性が高い職場では、歯科衛生士や歯科助手からの改善提案も自然に増え、組織づくりが好循環に転じていきます。

一人で抱え込まないための具体的アクション

ここまでの対処法は、院長お一人でも取り組めるものです。しかし、日々の診療をこなしながら組織づくりまで一人で担うのは、想像以上に大きな負担です。一人で抱え込まないことも、立派なリーダーシップの選択です。

コーチング型面談を取り入れる

指示や評価を中心にした面談ではなく、スタッフ自身の気づきや意欲を引き出すコーチング型の面談は、離職防止の観点からも効果的です。「どうしてできないんだ」ではなく「どうすればやりやすくなると思う」と問いかけを変えるだけで、スタッフの反応は大きく変わります。院長自身がコーチングのスキルを学ぶことで、日々の会話の質そのものが変わっていき、指示待ちだったスタッフが自ら提案してくれるようになったという声も、私たちのもとには数多く届いています。

外部のスタッフ面談代行やコミュニケーション研修を活用する

自分が話すと院長という立場上どうしても本音を引き出しにくい、という悩みもよく伺います。そうした場合は、第三者によるスタッフ面談代行や、院内全体を対象としたコミュニケーション研修を取り入れることも有効な選択肢です。院長自身が抱え込むケースと、外部の力を借りるケースを比較すると、次のような違いがあります。

比較項目院長が一人で抱え込む場合外部サービスを活用する場合
院長の心理的負担大きくなりやすい分散され軽減されやすい
スタッフの本音の引き出しやすさ立場上遠慮されやすい第三者だからこそ話しやすい
客観的な視点の有無主観に偏りやすい客観的な分析が得られる
継続のしやすさ忙しさで後回しになりがち仕組みとして継続しやすい

PlumChanでは、医科・歯科医院に特化したスタッフ面談代行サービスやコミュニケーション研修を通じて、院長先生とスタッフの間に立ち、信頼関係構築のプロセスを丁寧にサポートしています。実際にご相談くださった歯科医院様の中には、面談代行を導入してから半年ほどでスタッフからの相談が増え、離職防止につながった事例もございます。

離職防止のための仕組み化

面談や研修は、一度行って終わりにするのではなく、継続的な仕組みとして組織づくりに組み込むことが大切です。定期的な面談スケジュールを最初から年間計画に組み込んでおく、新人スタッフには入職後一定期間ごとに面談を設定するなど、仕組みとして離職防止策を運用することで、院長の負担を増やさずに組織の安定を保つことができます。

まとめ、承継期の孤独は正しい行動で必ず変えられます

歯科医院の承継後にスタッフがついてこないという悩みは、多くの2代目・3代目院長先生が通る道であり、決して特別なことではありません。先代との比較、信頼関係構築の未完了、コミュニケーション不足という3つの原因を理解し、スタッフ面談や心理的安全性づくりといった具体的な対処法を一つずつ実践していけば、状況は必ず変わっていきます。今の苦しさは、より良い組織づくりへの入り口に過ぎません。

私自身も含め、人間関係の悩みを抱えながら組織と向き合ってきた経験者だからこそお伝えできることがあります。一人で抱え込まず、必要なときは外部の力を借りながら、あなたらしいリーダーシップで組織づくりを進めていってください。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。

よくある質問

Q1. 承継後スタッフが辞めていくのはなぜですか?
A. 先代との比較への戸惑いや、信頼関係構築前の変化による不安が主な原因です。

Q2. 前院長と比較されるのが辛いときはどうすればいいですか?
A. 比較を否定せず受け止め、自分にしかできない強みを言葉で伝えましょう。

Q3. スタッフ面談はどのくらいの頻度で行うべきですか?
A. 承継直後は月1回、安定後は3か月に1回程度を目安に継続しましょう。

Q4. スタッフとの信頼関係を築くのにどれくらい時間がかかりますか?
A. 目安は半年〜1年程度で、対話の積み重ねの中で徐々に築かれます。

Q5. 自分で面談するのが苦手な場合はどうしたらいいですか?
A. 無理をせず、外部のスタッフ面談代行やコーチングを活用しましょう。

この記事を書いた人

梅田 亮のアバター 梅田 亮 代表取締役

株式会社PlumChan 代表取締役。医科・歯科専門でコーチング技術を用いたコミュニケーション研修やスタッフ面談代行を行い、心理的安全性の高い職場づくりを行っています。

目次