「ちゃんと頑張ってくれているのはわかっているのに、うまく伝えられない」。継承して2〜3年、そんなもどかしさを感じていませんか。前院長の時代から働くスタッフも、新しく入ったスタッフも、日々の診療に真剣に向き合ってくれている。それなのに、院内の空気はどこか乾いていて、スタッフの表情が晴れない。承認文化とは、スタッフの努力や成果を「見ている」「認めている」ということを、言葉や仕組みとして継続的に伝える院内文化のことです。この記事では、なぜ承認文化が歯科医院に必要なのか、その原因と具体的な作り方、そして今日から始められる声かけと表彰の工夫まで、私自身の経験も交えてお伝えします。
なぜ今、歯科医院に「承認文化」が必要なのか
歯科医院は少人数でチームを組み、密接な人間関係の中で診療を行う職場です。だからこそ、スタッフ一人ひとりが「自分はこの医院に必要とされている」と感じられるかどうかが、モチベーションと定着率を大きく左右します。「頑張っているのに誰も見てくれない」と感じた瞬間から、スタッフの心は医院から離れ始めます。
私自身も、継承したばかりの院長から「スタッフの頑張りをどう評価すればいいかわからない」という相談を数多く受けてきました。ある医院では、ベテラン歯科衛生士が新人指導に多くの時間を割いていたにもかかわらず、院長がその負担に気づかず「当然の仕事」として扱っていたケースがありました。本人に話を聞くと「誰も気づいてくれないなら、もう頑張らなくていいと思った」と口にしたのです。これはまさに、承認の欠如がスタッフの意欲を静かに削っていく典型例でした。
厚生労働省の職場環境改善に関する調査でも、離職理由の上位に「正当に評価されていないと感じた」という項目が繰り返し挙がっており、承認不足は歯科医院に限らず多くの職場に共通する課題であることがわかります。歯科医院の場合はチームの人数が少ない分、一人が感じる「見てもらえていない」という孤立感がそのまま院内の空気に直結しやすいのです。
前院長時代との比較がスタッフの心に生む違和感
2代目・3代目院長の医院では、スタッフが無意識のうちに前院長のマネジメントスタイルと今の院長を比較しています。前院長が長年の付き合いの中で自然に声をかけていたスタッフからすると、代替わり後に承認の言葉が減ったと感じるだけで「大切にされなくなった」という印象を持ってしまうことがあります。
承認不足が引き起こす負の連鎖
承認が不足すると、スタッフは自分の仕事に意味を見出しにくくなり、次第に受け身の姿勢になります。受け身になったスタッフを見て院長がさらに指示を増やすと、スタッフは「信頼されていない」と感じ、悪循環が加速します。
複数ドクター体制の医院で起こりやすい承認の偏り
勤務医やパートドクターが複数在籍する医院では、院長の目が届く範囲がさらに限られます。院長が直接診療を担当するチェアのアシスタントばかりが声をかけられ、他のドクターにつくスタッフへの承認が手薄になるケースは珍しくありません。誰の担当かにかかわらず、院内全員にまんべんなく目を向ける姿勢が信頼の土台になります。このような偏りに気づいたら、勤務医やチーフにも「気づいたことは伝えてほしい」と協力を仰ぎ、承認の担い手を院長一人に限定しない体制を作ることが有効です。
スタッフのやる気が続かない歯科医院に共通する3つの原因
承認文化が根付かない歯科医院には、共通する3つの原因があります。原因を正しく知ることが、遠回りに見えて一番の近道です。
原因1|「できて当たり前」という評価基準
診療技術やマナーは、院長にとっては「できて当たり前」の水準であっても、スタッフにとっては日々の努力の積み重ねです。基準が高い院長ほど、この「当たり前」の壁によってスタッフの努力を見過ごしがちです。
原因2|忙しさを理由にした声かけの後回し
診療の合間の数十秒でも声はかけられます。しかし「今は忙しいから後で」と先延ばしにするうちに、そのタイミング自体を忘れてしまう院長は少なくありません。承認は「いつか」ではなく「その場」で伝えることに意味があります。
原因3|属人的な承認で不公平感が生まれる
特定のお気に入りスタッフだけを褒める、声をかけやすいスタッフにばかり感謝を伝えるといった属人的な運用は、かえって院内の不公平感を生みます。心理的安全性の土台がないまま承認だけを増やしても、一部のスタッフが疎外感を抱く原因になりかねません(心理的安全性の作り方はこちらで詳しく解説しています)。
承認文化とは何か-歯科医院での意味と効果
承認文化とは、成果だけでなくプロセスや姿勢も含めて、スタッフの存在そのものを言葉や仕組みで認め合う文化のことです。具体的には「褒める」だけでなく、「気づいている」ことを伝える行為すべてを含みます。
私が同行したある医院では、院長が朝礼で「昨日、〇〇さんが新人の△△さんに丁寧に器具の説明をしていたのを見ました。ありがとう」と一言添えるようにしただけで、数週間後にはスタッフ同士が互いの仕事を認め合う発言が自然に増えました。承認は院長からスタッフへの一方通行ではなく、院内全体に連鎖するものです。アメリカの組織心理学の研究でも、上司からの承認行動がチーム内の相互承認行動を誘発することが報告されています。
承認と評価の違い
評価は成果を基準に序列をつける行為ですが、承認は成果の大小にかかわらず努力や存在そのものを認める行為です。歯科医院では両方が必要ですが、日常的に不足しがちなのは後者の承認です。
今日から始められる承認文化の作り方【5つの実践法】
ここからは、明日からすぐに実践できる具体的な方法を紹介します。大がかりな制度より、小さな習慣の積み重ねが承認文化を育てます。
実践法1|朝礼・終礼での「一言承認」
一日の始まりか終わりに、前日気づいたスタッフの良い行動を一つ具体的に伝えます。「頑張ってたね」ではなく「〇〇の場面で△△をしてくれて助かった」と、行動を具体的に描写することがポイントです。
実践法2|定期面談での承認タイムの確保
面談の冒頭5分を、指導や改善点の話ではなく、その期間にできるようになったこと・成長した点を伝える時間にあてます。定期的な1対1の場を設けることで、承認を伝える機会を仕組み化できます(1on1ミーティング導入方法はこちら)。
実践法3|スタッフ同士が承認し合う仕組みづくり
サンクスカードや院内チャットの「ありがとうボード」など、スタッフ同士が互いの仕事を認め合える簡単な仕組みを取り入れると、院長一人の承認に依存しない文化が育ちます。
実践法4|成果だけでなくプロセスを承認する
治療結果や売上といった数字だけでなく、そこに至るまでの工夫や努力のプロセスに目を向けて言葉にすることで、結果が出にくい時期のスタッフのモチベーションも支えられます。
実践法5|院長自身が「ありがとう」を口癖にする
意外と見落とされがちですが、院長が日常的に「ありがとう」を口にする医院ほど、スタッフ同士のコミュニケーションも柔らかくなる傾向があります。特別なことではなく、習慣として積み重ねることが重要です。
表彰制度を設計する際の3つのポイント
日々の声かけに加えて、月間や年間の表彰制度を取り入れる医院も増えています。ただし、設計を誤ると「特定のスタッフばかり選ばれる」という不満につながるため注意が必要です。
ポイント1|評価軸を複数用意する
診療技術だけでなく「チームワーク賞」「成長賞」「気配り賞」など複数の評価軸を用意することで、多様なスタッフの努力を拾い上げることができます。
ポイント2|選定理由を具体的に伝える
表彰する際は「なぜその人が選ばれたのか」を具体的なエピソードとともに伝えます。理由が曖昧だと、選ばれなかったスタッフの不公平感が強まってしまいます。
ポイント3|小さくても継続できる規模で始める
いきなり大きな賞金や豪華な仕組みを用意する必要はありません。月に一度、朝礼で一言紹介する程度から始めて、継続することの方がはるかに効果的です。
表彰制度を導入した医院で実際にあった変化
ある医院では、月間MVPを匿名アンケートでスタッフ同士が推薦し合う仕組みを導入しました。導入当初は「誰かを選ぶのは気が引ける」という声もありましたが、続けるうちに「あの時助けてもらった」という具体的なエピソードが集まるようになり、院長が気づいていなかったスタッフ同士の助け合いが可視化されるようになりました。院長が見ていない場所での頑張りに光を当てられるのも、表彰制度の大きな価値です。
承認文化がもたらす院内への効果
承認文化が根付いた医院では、スタッフの離職率が下がるだけでなく、患者対応の質そのものが向上する傾向があります。認められている実感があるスタッフは、自然と患者にも丁寧に接するようになります。
私が関わった医院の一つでは、承認の仕組みを半年続けた結果、スタッフアンケートの「この医院で長く働きたい」という項目のスコアが明確に上昇しました。院長自身も「スタッフの表情が変わった」と実感を語ってくれています。承認文化は数字では測りにくい取り組みですが、スタッフの信頼を得るための土台になります(スタッフの信頼を得る5つの方法もあわせてご覧ください)。
まとめ|承認文化はテクニックではなく院長の姿勢から
承認文化づくりは、特別なスキルや大きな予算がなくても始められます。大切なのは、スタッフの努力に気づき、それを言葉にして伝え続けるという院長自身の姿勢です。今日の診療の中で、一人のスタッフに具体的な感謝の言葉をかけることから始めてみてください。それが、前院長と比較されがちな2代目・3代目院長にとって、自分らしいマネジメントを築く第一歩になります。一人で抱え込まず、まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
💡 承認の伝え方に自信がないあなたへ
よくある質問
Q1. 承認文化づくりに時間がかかりすぎて診療の妨げになりませんか。
一言の声かけであれば数十秒で済みます。特別な時間を確保する必要はなく、日々の診療の合間に習慣として組み込むことができます。
Q2. スタッフの人数が少ない医院でも表彰制度は必要ですか。
人数が少ない医院ほど一人ひとりの努力が目立ちやすいため、大がかりな制度でなくても、朝礼での一言紹介など小規模な形で十分効果があります。
Q3. 承認しても態度が変わらないスタッフにはどう接すればよいですか。
承認は即効性のあるものではなく、継続することで少しずつ信頼関係が築かれていきます。すぐに変化が見えなくても、まずは3ヶ月程度続けて様子を見ることをおすすめします。
Q4. 院長がうまく言葉にできない場合、代わりの方法はありますか。
サンクスカードやチャットツールでの一言メッセージなど、話し言葉が苦手な院長でも取り入れやすい仕組みがあります。得意な伝え方を選んで構いません。
Q5. 承認と甘やかしの違いがわかりません。
承認は努力やプロセスを認める行為であり、改善が必要な点を指摘しないこととは別物です。褒めるべき点は褒め、伝えるべき課題は別途きちんと伝えることが大切です。
一人で抱え込まず、まずはお話を聞かせてください


