「板挟み」とは、前院長・スタッフ・患者など複数の立場の間に立ち、双方に配慮し続けることで心身が消耗していく状態のことです。歯科医院の院長は、この板挟みの中心に立たされる機会が非常に多い職種だと私は感じています。
診療中はスタッフ同士の空気を読み、休憩中はベテランスタッフの機嫌をうかがい、診療後は前院長からの評価を気にする。気づけば一日の大半を「誰かに気を遣う時間」に費やしてしまい、自分の医院なのに一番くつろげないのが院長席、という声を何度も聞いてきました。
スタッフからは「院長は何もわかってくれない」と言われ、患者からのクレームは自分の責任として受け止め、先代からは「まだまだだな」という視線を感じる。誰よりも気を遣っているのに、誰からも労われない。そんな毎日を送っていないでしょうか。
私自身も、家族との関係に悩んでいた時期、誰に対しても「良い顔」をしようとして、結局誰の期待にも応えられず、心身ともに疲れ果てた経験があります。板挟みの疲れは、気合いや根性で乗り越えるものではありません。その疲れは、あなたの能力不足のサインではなく、構造的に無理のある立ち位置にいるサインです。
診療の腕を磨いても、経営の知識を身につけても、この「板挟みの疲れ」だけは誰も教えてくれません。だからこそ、自己流でなんとかしようとして、余計に消耗してしまう院長が後を絶たないのだと思います。
この記事では、院長が板挟みで疲れてしまう本当の原因と、そこから抜け出すための考え方、今日から実践できる具体的な行動をお伝えします。
板挟みで疲れ切っている院長に共通する状態
板挟みに悩む院長には、いくつかの共通した特徴があります。日々の診療の中で、次のような場面に心当たりはないでしょうか。
| 場面 | 院長が抱えがちな役割 | 疲れの正体 |
|---|---|---|
| スタッフ同士のトラブル | 毎回自分が仲裁役として間に入る | 双方の顔色をうかがい続ける緊張感 |
| 患者からのクレーム | すべて自分の責任として抱え込む | 謝罪と原因究明を一人で背負う重さ |
| 前院長・親族の評価 | 常に比較され評価を気にする | 常時監視されているような息苦しさ |
マンパワーグループが実施した調査では、中間管理職の8割を超える人が「上司との関係」や「板挟みになりやすい仕事量の多さ」など、まさにこの立ち位置特有のストレス要因によって勤務先でのストレスを感じていると回答しています。院長という立場は経営者でありながら、スタッフから見れば「上」、前院長や患者から見れば「板挟みの下」に置かれることが多く、まさに一般企業の中間管理職と同じ構造的ストレスを抱えているのです。
「自分の要領が悪いから疲れる」のではなく、「立場そのものが疲れやすい構造になっている」と知るだけでも、少し肩の荷が下りるのではないでしょうか。
すでに院内の対立仲裁に疲れを感じている方は、歯科医院のスタッフ対立を院長が仲裁する方法もあわせてご覧いただくと、仲裁そのものの負担を減らすヒントが見つかるはずです。
なぜ「気を遣いすぎる」が疲れを生むのか
板挟みで疲れる本当の原因は、立場そのものよりも「全員に好かれよう」「全員を満足させよう」とする関わり方にあります。原因は主に3つに分けられます。
原因1:他人の課題まで自分の課題にしてしまっている
スタッフ同士の相性の悪さ、ベテランスタッフの機嫌、患者の感情の起伏。これらは本来、それぞれの人が向き合うべき課題です。しかし板挟みに疲れる院長の多くは、これらすべてを「自分が何とかしなければ」と抱え込んでしまいます。結果として、本来自分がやるべき経営判断や診療に充てる時間とエネルギーまで削られてしまうのです。
原因2:判断基準が「相手の顔色」になっている
「これを言ったらベテランスタッフの機嫌を損ねるかもしれない」「あの人はどう思うだろうか」。判断の軸が自分の理念や医院の方針ではなく、相手の反応に置かれてしまうと、常に周囲の顔色をうかがう生活になり、これが慢性的な疲労の最大の要因になります。方針が定まらないことで、スタッフから見ても「何を大事にしている院長なのか分からない」という不信感につながることもあります。
原因3:「弱さを見せてはいけない」という思い込み
院長という立場上、弱音を吐けない、相談できないと感じている方は少なくありません。私自身も、誰かに頼ることは負けだと思い込んでいた時期があり、一人で抱え込むほど孤立感が深まっていくのを経験しました。板挟みの辛さを一人で抱え込む状態が続くと、疲労は回復する間もなく蓄積していきます。この孤立感については、後継ぎ院長が抱える孤独感の正体と向き合い方でも詳しく解説しています。
「全員によく思われようとすること」自体が、あなたを疲れさせている一番の原因かもしれません。
板挟みから抜け出すための考え方
ここで重要になるのが、「課題の分離」という考え方です。これはアドラー心理学の中核概念で、ある問題が「誰の課題なのか」を明確に切り分け、他人の課題にまで責任を感じすぎないようにする考え方です。
例えば、スタッフ同士の相性の問題は、最終的にはスタッフ本人たちの課題です。院長の役割は、話し合いの場を用意し、必要なルールを整えることまでであり、相手の感情そのものをコントロールすることではありません。この線引きができるようになると、板挟みの重さが驚くほど軽くなります。
私自身、家族との関係で「相手の機嫌を自分の責任だと思い込む」ことをやめた瞬間から、驚くほど心が軽くなった経験があります。それまでは、相手が不機嫌なのは自分のせいだと思い込み、常に相手の顔色をうかがっていました。しかし、相手の感情は相手自身の課題であると理解してから、初めて自分の課題に集中できるようになったのです。
これは冷たく突き放すこととは違います。相手への関心や配慮は持ち続けながら、「最終的にその感情や選択に責任を持つのは誰か」という一点だけを明確にする、という考え方です。この線引きが曖昧なままだと、いつまでも全員の感情の面倒を自分一人で見続けることになってしまいます。
「相手がどう感じるか」はあなたの課題ではなく、相手の課題です。この線引きを日々の判断に取り入れるだけで、板挟みのストレスは大きく変わります。課題の分離の具体的な実践方法は、院長がスタッフの問題を抱え込む理由と課題の分離でさらに詳しく取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。
今日からできる具体的なアクション
考え方を理解しただけでは、板挟みの疲れはすぐには変わりません。今日から実践できる具体的な行動を4つご紹介します。
アクション1:「自分が引き取る問題」と「本人に返す問題」を紙に書き出す
今抱えている悩みごとを一つずつ紙に書き出し、それが「自分が対応すべきこと」なのか「本人同士で解決すべきこと」なのかを仕分けします。視覚化するだけで、抱え込んでいた荷物の半分は自分の課題ではなかったと気づくはずです。
アクション2:即答しない練習をする
板挟みに疲れる院長ほど、その場で全員が納得する答えを出そうとしがちです。「少し考えてからお伝えします」と一度持ち帰る習慣をつけるだけで、感情に流された判断を防ぎ、心の余裕も生まれます。
アクション3:ベテランスタッフとの関係で無理をしすぎない
ベテランスタッフとの関係に特に神経を使っている院長は多いですが、全てを一人で丸く収めようとする必要はありません。役割分担や伝え方を工夫するだけで負担は大きく減ります。お局スタッフとの向き合い方については、お局スタッフへの対応方法|二代目院長の心得5選で具体的な心得をまとめていますので、参考にしてみてください。
アクション4:「疲れている」と自分の状態を言葉にする
意外と見落とされがちですが、自分が今どれだけ疲れているかを言葉にして認めることも大切な一歩です。信頼できる相手に「実は最近、板挟みで疲れている」と伝えるだけでも、抱えていた緊張がほどけていくことがあります。
例えば、スタッフ間のトラブルの仲裁を頼まれたときも、「すぐに私が間に入って解決します」ではなく、「まずはお二人で話してみてもらえますか。それでも難しければ改めて時間を取りましょう」と伝えるだけで、抱え込む荷物は大きく減ります。最初は勇気がいりますが、こうした小さな言い換えの積み重ねが、板挟みの構造そのものを変えていきます。
「一人で全部背負わなくていい」と自分に許可を出すことが、板挟みから抜け出す最初の一歩です。
まとめ
板挟みで疲れ切ってしまうのは、あなたの能力や人柄の問題ではなく、全ての課題を自分のものとして抱え込んでしまう関わり方が原因です。課題の分離という視点を持ち、「自分が引き取るべきこと」と「相手に委ねるべきこと」を見極めることで、板挟みの重さは確実に軽くなっていきます。
とはいえ、長年染みついた考え方の癖を一人で変えていくのは簡単ではありません。私自身、この視点に気づくまでに長い時間がかかりました。もし一人で抱え込みすぎていると感じたら、ぜひ一度、まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
💡 板挟みの疲れ、一人で抱えていませんか
よくある質問
Q1. 板挟みで疲れているのは自分だけなのでしょうか。
いいえ、決してあなただけではありません。中間管理職やクリニックの院長など、複数の立場の間に立つ役割の人は、構造的に同じストレスを抱えやすいことが調査からもわかっています。あなたの感じ方が特別に弱いわけではなく、立場そのものが疲れやすい構造になっているのです。周囲に相談できる相手が少ない分、より強く感じやすいというだけの違いです。
Q2. スタッフの機嫌が悪いと、つい自分のせいだと感じてしまいます。
それは非常に多くの院長が抱える感覚です。相手の感情は相手自身の課題であり、院長がすべてをコントロールできるものではありません。もちろん配慮は大切ですが、相手の機嫌そのものの責任まで背負う必要はないと知ることが、まず大切な一歩になります。少しずつ「自分の課題」と「相手の課題」を分けて考える練習をしてみてください。
Q3. 課題の分離をすると、冷たい院長だと思われませんか。
課題の分離は、相手を突き放すことではありません。相手への関心や配慮を持ちながらも、最終的な責任の所在を明確にする考え方です。むしろ、適切な距離感を保つことで、なんでも背負い込んで疲弊してしまう状態から抜け出し、長期的には信頼関係が築きやすくなります。
Q4. 板挟みの辛さは誰に相談すればよいのでしょうか。
家族や同業の友人に話すことも助けになりますが、院長という立場の特殊性を理解した第三者に話すことで、より整理された形で気持ちを軽くできることが多いです。院長自身が受けるコーチングという選択肢もその一つです。話す相手によって、気づきの深さは大きく変わってきます。
Q5. どのくらいで板挟みの疲れは軽くなりますか。
考え方を変えただけで、その日のうちに気持ちが軽くなったという声もあれば、数ヶ月かけて少しずつ変化を実感する方もいます。大切なのは、一気に変えようとせず、今日ご紹介したような小さな行動から一つずつ始めることです。
一人で抱え込まず、まずはお話を聞かせてください


