はじめに|板挟みで疲れ果てていませんか
ベテランの歯科衛生士と若手の歯科助手の折り合いが悪く、院内の空気がピリピリしている。どちらに味方しても角が立ち、毎朝憂鬱な気持ちで出勤している院長先生も多いのではないでしょうか。診療の合間にスタッフの表情を確認し、休憩室の空気を気にしながら一日を過ごすのは、想像以上に神経をすり減らすものです。スタッフ同士のトラブル仲裁とは、対立する双方の言い分を中立的な立場で整理し、業務に支障が出ない状態まで関係を修復する院長の役割のことです。院長になった以上、誰もが避けて通れないテーマですが、正しい進め方を知っている人は多くありません。
この記事を読むとわかることは次の3つです。
- 歯科医院でスタッフ同士のトラブルが起きやすい理由
- 仲裁がこじれてしまう典型的な原因
- どちらの肩も持たず、公平に関係を修復する5つのステップ
私自身、これまで多くの歯科医院で、院長先生が二人の間に立って疲弊してしまう姿を見てきました。仲裁は我慢比べではなく、正しい手順を知っていれば誰でもできるスキルです。一つずつ整理していきましょう。
なぜ歯科医院はスタッフ同士のトラブルが起きやすいのか
歯科医院という職場には、トラブルが起きやすい構造的な特徴があります。
女性中心の少人数組織であること
歯科衛生士・歯科助手ともに女性の比率が高く、多くの医院は数名から十数名という少人数体制です。人数が少ないほど、一人ひとりの相性が職場全体の空気に直結してしまうため、一般企業のように配置転換で距離を取ることが難しいという事情があります。
患者様の前では感情を出せないストレス
診療中は常に笑顔で丁寧な対応を求められる一方、休憩室に戻った瞬間に本音がこぼれ出す、というのはよくある光景です。表では感情を抑え、裏で不満が蓄積するという構造そのものが、対立を深刻化させやすい土壌になっています。
キャリアと役割の違いによる摩擦
十年選手のベテラン衛生士と、入職半年の若手助手とでは、仕事に対する優先順位も、院長への距離感も異なります。ベテランからすれば「効率よりも丁寧さ」を大切にしたい場面で、若手が要領よくこなそうとすると、それだけで「なめられている」と感じてしまうことがあります。実際、クリニックにおける職員間トラブルは法律相談の現場でも増加傾向にあると弁護士による解説記事でも指摘されており、歯科医院に限らず医療現場全体で顕在化しやすい課題であることがうかがえます。
トラブルの起きやすいパターンを整理する
対立の背景を整理すると、次のようなパターンに分類できます。
| 対立のタイプ | 典型的なきっかけ | 起きやすい関係性 |
|---|---|---|
| 役割不明瞭型 | 器具管理や引き継ぎの担当が曖昧 | ベテラン×若手 |
| 価値観の違い型 | 丁寧さ重視か効率重視かの対立 | 経験年数が近い同士 |
| 伝達不足型 | 口頭のみの指示で認識のズレ | 全ての組み合わせ |
| 感情の蓄積型 | 小さな不満が積み重なり爆発 | 長期間一緒に働く同士 |
どのタイプに当てはまるかを把握しておくだけでも、院長が仲裁に入るときの見立てが立てやすくなります。多くのケースは感情の対立に見えて、実際は役割や伝達の仕組みの不備が原因になっている点は、覚えておく価値があります。
仲裁がこじれる原因は3つ
良かれと思って介入したのに、かえって関係がこじれてしまう。そこには共通した原因があります。
原因1:どちらかに感情移入してしまう
普段からよく話す方、自分と気が合う方の言い分を先に聞くと、無意識のうちにその人寄りの結論に近づいてしまいます。院長自身が「どちらの味方でもない」と自覚して臨まないと、公平さは簡単に崩れるものです。
原因2:事実確認をせず印象だけで判断する
「いつも○○さんが悪い」という周囲の噂だけを根拠に対応してしまうと、実際には違う事情があった場合に、深刻な不信感を招きます。感情の話と事実の話を分けて聞き取ることが仲裁の出発点です。
原因3:全員の前で解決しようとする
朝礼やミーティングの場で「二人とも仲良くしてください」と伝えるだけでは、根本的な解決になりません。むしろ全員の前で扱われたこと自体が、当事者にとって新たな苦痛になってしまうケースもあります。
この3つの原因に共通するのは、院長が「早く収めたい」という焦りから、手順を飛ばしてしまうことです。焦って結論を急ぐほど、当事者の一方、あるいは両方に「ちゃんと話を聞いてもらえなかった」という不満が残り、表面上は収まっても根本的な対立は形を変えて再燃してしまいます。
仲裁で院長がやってはいけないNG対応
正しい手順の前に、避けるべき対応も押さえておきましょう。
NG1:即日で白黒つけようとする
初日にヒアリングした内容だけで「あなたが悪い」と結論を出してしまうと、後から違う事情が判明したときに信頼を大きく損ないます。結論を急がず、複数回に分けて事実を積み上げる姿勢が必要です。
NG2:他のスタッフに意見を求めて回る
「あの二人のこと、どう思う?」と周囲に聞いて回ると、院内に噂話が広がり、対立の当事者が孤立してしまうことがあります。情報収集は当事者本人からが基本です。
NG3:仲裁を先延ばしにする
「そのうち落ち着くだろう」と様子を見続けている間に、対立は静かに深刻化していきます。気づいた時点で早めに個別ヒアリングの時間を確保することが、こじれを防ぐ最大のポイントです。
中立的に仲裁する5つのステップ
ここからは、実際に効果が確認されている仲裁の進め方を、順を追ってご紹介します。
ステップ1:個別に事実だけをヒアリングする
まずは当事者それぞれと、別々の時間・場所で話す機会を設けます。このとき「あなたはどう思う?」ではなく、「いつ、どこで、何があったか」という事実に絞って聞くことがポイントです。感情的な評価を挟まず、まずは情報を集めることに徹します。
ステップ2:双方の言い分を整理し、共通点を探す
二人分の話を照らし合わせると、多くの場合「業務の役割分担が曖昧だった」「伝達方法にすれ違いがあった」といった、感情ではなく仕組みの問題が背景にあることが見えてきます。
ステップ3:共通のゴールを言葉にする
「二人とも、患者様に良い医療を提供したいという気持ちは同じですよね」というように、対立する二人が本来共有しているはずの目的を、院長の口から明確に言葉にします。敵対関係ではなく、同じ目標に向かうチームであることを再確認するプロセスです。
ステップ4:今後のルールを一緒に決める
「気になったことはその場でメモに残し、休憩室ではなく院長に伝える」など、再発を防ぐための具体的なルールを、当事者を交えて決めます。院長が一方的に決めたルールよりも、本人たちが関わって決めたルールの方が、実際に守られやすい傾向があります。
ステップ5:一定期間後にフォローアップする
仲裁して終わりではなく、2週間後、1ヶ月後に「その後どう?」と声をかける時間を設けます。フォローがあることで、当事者は「見捨てられていない」と感じ、再燃を防ぐことができます。フォローアップを省略してしまうと、表面上は落ち着いたように見えても、当事者の中では「結局、話を聞いただけで終わった」という不完全燃焼感が残り、次の小さなきっかけで同じ対立が再発することが少なくありません。
この5つのステップに共通しているのは、院長が「裁く人」ではなく「整理を手伝う人」に徹するという姿勢です。白黒をつけて勝ち負けを決めるのではなく、双方が納得できる着地点を一緒に探すという意識を持つだけで、当事者からの見え方は大きく変わります。
実際にあった仲裁の事例
以前ご相談をいただいた継承2年目の院長先生は、10年目の歯科衛生士と2年目の歯科衛生士の対立に板挟みになり、どちらの肩も持てずに疲弊されていました。個別にヒアリングを進めると、対立の根本は「新しい器具の管理方法について、指示が口頭のみで曖昧だったこと」にありました。管理方法を紙にまとめ、二人で確認するルールを作ったところ、数週間で険悪な空気は落ち着いたそうです。感情のぶつかり合いに見えても、根っこには仕組みの不備が隠れていることが多いというのが、この事例からの学びです。
私自身も、人と人との間に立つ難しさを経験してきた一人として、板挟みの辛さはよくわかります。誰かの味方をすれば誰かを敵に回すのではないかという恐怖は、経験した人にしかわからない重さがあります。だからこそ、正しい手順を知っておくことが、院長自身の心の負担を軽くしてくれます。仲裁は個人の人柄や我慢強さで乗り切るものではなく、誰でも身につけられる「技術」だと捉え直すことが、最初の一歩になります。
今日からできる具体アクション
まず今週中に、今もし対立を抱えているスタッフがいれば、双方に「少し話を聞かせてもらえる?」と個別に声をかけてみてください。そのうえで、事実だけをメモに残す習慣をつけましょう。そして、話を聞いた後は必ず「話してくれてありがとう」と伝えることです。加えて、ヒアリングした内容はその日のうちに簡単なメモにまとめておくと、後から双方の話を照らし合わせる際に記憶違いを防ぐことができます。仲裁の第一歩は、解決策を出すことではなく、公平に話を聞く姿勢を見せることにあります。
まとめ
スタッフ同士のトラブル仲裁は、我慢や気合いで乗り切るものではなく、事実確認・共通ゴールの設定・ルール化・フォローアップという手順を踏めば、誰でも実践できるスキルです。院長がすべてを一人で抱え込む必要はなく、手順さえ知っていれば、対立を関係修復のきっかけに変えることも十分に可能です。とはいえ、日々の診療をこなしながら、院長自身がすべての仲裁役を担い続けるのは大きな負担です。私たちPlumChanでは、中立的な第三者としてスタッフ面談を代行し、院長先生の負担を軽減するサポートを行っています。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
よくある質問
Q. スタッフ同士のトラブルに院長が介入するタイミングは?
A. 業務や患者対応に支障が出始めた時点で、早期に介入すべきです。
Q. どちらの肩も持たないためにはどうすればいい?
A. 個別に事実だけをヒアリングし、評価や感情を挟まず整理することです。
Q. 仲裁がうまくいかない時はどうすればいい?
A. 院長以外の第三者、外部の面談代行やコーチングの活用が有効です。
Q. スタッフの喧嘩を放置するとどうなる?
A. 周囲の士気が下がり、離職や患者対応の質の低下につながります。
Q. 仲裁の際にやってはいけないことは?
A. 一方の話だけを聞いて即断すること、他のスタッフの前で叱責することです。

