歯科医院院長のコーチングとティーチングの違いとは、「答えを教えるか、答えを引き出すか」という関わり方の違いです。ティーチングは知識や手順を持つ側が持たない側に教える一方向のコミュニケーションであるのに対し、コーチングは相手の中にある答えや意欲を対話によって引き出す双方向のコミュニケーションを指します。
継承2〜3年目の院長先生の多くが「何度指導しても同じミスを繰り返す」「言われたことしかやらないスタッフが増えた」という悩みを抱えています。実はその原因の多くは、本来コーチングで関わるべき場面で、ティーチングばかりを使い続けてしまっていることにあります。私自身も、スタッフとの人間関係に悩んでいた時期に「教えれば教えるほど、スタッフが自分で考えなくなっていく」という矛盾に直面した経験があります。この記事では、両者の違いと歯科医院での具体的な使い分け方を、実践的な視点でお伝えします。
「教えても響かない」「言っても動かない」の正体
多くの院長先生は、スタッフに何かを伝えるとき、無意識のうちに「正解を教える」というティーチングのスタイルを選んでいます。技術指導や手順の説明においてはこれが最も効率的で、間違いありません。しかし、スタッフの意欲を引き出したい場面や、本人の考えを深めてほしい場面でもティーチングを使い続けてしまうと、「言われたことだけをやる」「自分で考えて動かない」というスタッフを増やしてしまう結果につながります。
私が相談を受けたある院長先生は、リーダー候補のスタッフに対して「こうした方がいい」「次はこうして」と丁寧に指導を重ねていました。ところが本人からは「院長の言う通りにしていれば怒られないから、それでいいと思っていました」という言葉が返ってきたそうです。教え続けることが、かえって本人の主体性を奪ってしまっていたのです。ビジネスコーチングを導入した企業を対象にした調査では、導入企業の84.7%が効果に満足しており、その中でも「リーダー層として求められる視点の獲得や行動変容が促された」という回答が最も多く挙げられています。教えるだけでは得られない変化が、コーチング的な関わりによって生まれることを示すデータだといえます。
ティーチングだけでは歯科医院のスタッフが育たない3つの原因
「正解を渡し続けること」が、実は成長のブレーキになっていることがあります。 ティーチング偏重の指導がうまくいかなくなる背景には、主に3つの原因があります。
原因1|「考える機会」を院長が先回りして奪ってしまう
スタッフが何かで迷っている様子を見ると、つい院長が先に答えを教えてしまう。これは決して悪気があってのことではなく、むしろ「早く助けてあげたい」という善意から生まれる行動です。しかし、考える前に答えを渡され続けたスタッフは、次第に「自分で考えるより、聞いた方が早い」という姿勢になっていきます。
原因2|経験年数が上がったスタッフにも新人と同じ関わり方をしてしまう
入職したばかりの新人にはティーチングが有効ですが、経験を積んだスタッフに対しても同じように手取り足取り教え続けると、本人は「まだ一人前と認められていない」と感じてしまいます。経験年数に応じて関わり方を変える意識が抜け落ちていると、成長意欲そのものを削いでしまうことがあります。
原因3|「教える=正しい指導」という思い込みがある
歯科医療の現場は技術と知識の正確さが求められる仕事です。そのため「きちんと教えることこそが良い指導だ」という価値観が根強く残りやすい環境でもあります。この思い込みが強いほど、対話を通じて相手に気づかせるというコーチング的な関わりが「遠回り」に感じられ、選択肢から外れてしまいます。
さらに、院長自身が先代から「技術は見て覚えるもの、教わったことは正確にこなすもの」という指導文化の中で育ってきた場合、その関わり方を無意識のうちにそのまま踏襲してしまうこともあります。時代とともにスタッフの価値観や働き方への期待も変化しているにもかかわらず、指導のスタイルだけが昔のままになっていると、院長の意図とスタッフの受け止め方の間にズレが生まれやすくなります。
コーチングとティーチングは対立するものではない
どちらが優れているかではなく、どちらを今の場面で使うべきかが本質です。 コーチングとティーチングは対立する概念ではなく、状況に応じて使い分けるべき2つの道具です。知識やルールがまだ身についていない新人スタッフに対してコーチングだけで関わろうとすると、本人は何も分からないまま自分で考えることを求められ、かえって不安を強めてしまいます。逆に、十分な経験を積んだスタッフに対してティーチングばかりを続けると、成長の機会を奪ってしまいます。
大切なのは、相手の経験や状況を見極めた上で、教えるべき場面ではしっかり教え、引き出すべき場面ではじっくり問いかける、という切り替えです。この切り替えができるようになると、スタッフとの1on1や面談の質そのものが変わっていきます。面談の場づくりについては歯科医院の1on1ミーティング導入方法【7ステップ】でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
歯科医院でコーチングを使うべき場面・ティーチングを使うべき場面
具体的な使い分けの目安を整理すると、次のように考えることができます。ティーチングが適しているのは、感染対策の手順や器具の扱い方など「正確さが命に関わる知識・ルール」を伝える場面です。ここで曖昧なコーチング的問いかけをしてしまうと、かえって危険を招きかねません。
一方でコーチングが適しているのは、「なぜ患者様への声かけがうまくいかないのか」「どうすればチーム内の連携がもっと良くなるか」といった、正解が一つに定まらないテーマについて本人の考えを深めたい場面です。こうした場面で院長が先に答えを言ってしまうと、スタッフは「自分の意見を求められていない」と感じ、本音を話さなくなっていきます。評価面談のような、本音を引き出す必要がある場面でも同じことが言えます。伝え方の工夫については歯科医院の評価面談|本音を引き出す伝え方も参考になります。
この2つを判断する簡単な目安として、「正解が一つに決まっているかどうか」で考えるとわかりやすくなります。感染対策の手順や器具の管理方法のように、誰がやっても同じ結果にたどり着くべき内容はティーチング、患者様への接し方やチーム内の連携方法のように、人によって最適解が異なる内容はコーチング、というように整理しておくと、日々の指導の中で迷わずに使い分けやすくなります。
今日から実践できるコーチング型の問いかけ
「どう思う?」の一言が、スタッフの表情を変えます。 コーチングと聞くと専門的なスキルが必要に思われがちですが、まずは日々の会話の中で問いかけの割合を増やすことから始められます。
「なぜ」ではなく「どうすれば」で聞く
「なぜできなかったの」という質問は、相手を責めるニュアンスを含みやすく、防御的な反応を引き出してしまいます。代わりに「どうすればうまくいくと思う?」と未来志向で問いかけることで、相手は責められている感覚を持たずに自分の考えを話しやすくなります。
沈黙を埋めずに待つ
スタッフに問いかけたあと、答えが返ってくるまでの数秒間の沈黙を、院長がつい埋めてしまうことがあります。この沈黙こそが本人が考えている時間であり、ここで院長が先に答えを言ってしまうと、せっかくの問いかけが台無しになってしまいます。
最後は必ず本人の言葉でまとめてもらう
対話の最後に「今日話してみて、次に何をしてみようと思った?」と本人の言葉でまとめてもらうことで、行動の主語が「院長に言われたから」ではなく「自分で決めたから」に変わります。この小さな違いが、その後の行動の継続性に大きく影響します。こうした関わりを続けていくと、チーム全体の心理的安全性にも良い影響が広がっていきます。心理的安全性づくりの具体策は歯科医院の心理的安全性の作り方|院長の実践5ステップでも解説しています。
院長自身がコーチング型の関わりを取り入れて変わったこと
ある3代目院長は、リーダースタッフとの面談で「指示」を減らし「質問」を増やすことを半年ほど続けたところ、そのスタッフが自ら後輩指導の改善案を提案してくるようになったといいます。以前は院長が決めたことをこなすだけだったチームが、次第に「自分たちで考えて動く」チームへと変化していったそうです。院長自身も「教えることを手放す怖さ」があったと振り返っていましたが、結果としてスタッフの主体性が育ち、院長の負担そのものも軽くなったといいます。
コーチングは特別な資格を持つ人だけが使う特殊な技術ではなく、日々の関わり方の中に少しずつ取り入れていけるものです。ティーチングとコーチング、両方を使い分けられるようになることが、継承後の院長にとって大きな武器になります。
こうした変化は、スタッフだけに起こるものではありません。院長自身が第三者からコーチングを受ける経験を通じて、自分がどんな場面で無意識にティーチング寄りになりやすいのかに気づけたという声もよく聞かれます。自分の指導のクセを客観的に振り返る機会があるかどうかが、使い分けを身につけるスピードを大きく左右します。
まとめ|教えることと引き出すこと、両方を使い分ける院長へ
ティーチングとコーチングは、どちらか一方が正しいというものではありません。正確な知識やルールを伝えるべき場面ではしっかり教え、スタッフ自身の考えや意欲を育てたい場面ではじっくり問いかける。この使い分けができるようになると、スタッフとの関係性も、チームの主体性も少しずつ変わっていきます。
とはいえ、日々の診療に追われる中で、この使い分けを一人で身につけていくのは簡単なことではありません。自分の指導スタイルの傾向は、自分では意外と気づきにくいものです。だからこそ、第三者の視点を借りながら少しずつ練習していくことが、遠回りのようで実は一番の近道になります。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
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よくある質問
Q1. コーチングとティーチングはどちらを先に学ぶべきですか
歯科医院の現場では、まず基本的なティーチングのスキルを整理したうえで、コーチング的な問いかけを少しずつ取り入れていくのが実践的です。
Q2. コーチングは経験の浅いスタッフにも使えますか
経験の浅いスタッフには、まず必要な知識やルールをティーチングで伝えたうえで、考える力を育てたい場面に限定してコーチングを使うのが効果的です。
Q3. 院長自身がコーチングを学ぶには、どのような方法がありますか
書籍や研修で基礎を学ぶ方法もありますが、院長自身が第三者からコーチングを受け、対話を通じて体感的に学ぶ方法が特に効果的だといわれています。
Q4. コーチングを取り入れると、指導に時間がかかりませんか
最初は時間がかかるように感じますが、スタッフが自分で考えて動けるようになるにつれて、院長が一つひとつ指示を出す時間はむしろ減っていきます。
Q5. スタッフによって効果に差はありますか
はい。性格や経験によって響き方は異なります。相手の状況を見ながらティーチングとコーチングの配分を調整することが大切です。
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