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親から継いだ歯科医院ならではの難しさ

親から継いだ歯科医院ならではの難しさ

親子承継とは、実の親から歯科医院の経営権を引き継ぐことであり、単なる事業承継とは異なり、親子という感情的な関係性までも同時に引き継ぐことを意味します。この「経営」と「親子関係」が分かちがたく結びついている点こそが、親から医院を継いだ院長先生だけが抱える独特の難しさの正体です。

第三者から医院を承継する場合であれば、前任者との関係は基本的にビジネス上のものとして整理できます。しかし、相手が自分の親であるとき、そこには何十年分もの親子の歴史、期待、遠慮、時には反発が入り混じります。経営判断のはずなのに、なぜか「親に認めてもらえるかどうか」が気になってしまう——それが、親子承継ならではの重さです。

さらに言えば、親子承継の場合は「継ぐかどうか」を選ぶ自由そのものが、最初から狭められていたケースも少なくありません。幼い頃から後継ぎとして育てられ、他の選択肢を十分に検討する間もなく歯科医師の道に進んだという方も多いはずです。自分で選び取った承継ではないという感覚が、責任感と息苦しさの両方を強めてしまうこともあります。

私自身、家族との関係の中で「認めてもらいたい」という気持ちに長く縛られてきました。良い評価をもらうために頑張り、頑張った結果を受け止めてもらえないと深く傷つく。そのループから抜け出せずにいた時期があります。だからこそ、親から医院を継いだ院長先生が感じている葛藤は、他人には分かりにくいけれど確かに存在するものだと、身をもって理解しています。

目次

「継がせてもらった」という負い目が判断を鈍らせる

親から医院を継いだ院長先生の多くが、口には出さなくても「継がせてもらった」という感覚を抱えています。この感覚があると、経営判断の場面で純粋に「医院にとって何が最善か」を考えるべきところに、「親はどう思うだろうか」という別の基準が紛れ込んでしまいます。

ある歯科医院では、院長先生が古参スタッフの給与体系を見直したいと考えていました。しかし、その制度は先代である父親が作ったものであり、変更を切り出すたびに「親のやり方を否定することになるのではないか」という迷いが生まれ、結局何年も先送りにされていました。先送りにしているのは制度の問題ではなく、親子の感情の問題だったのです。

このように、経営上の意思決定に親子関係の力学が混ざり込むこと自体は、決して珍しいことではありません。大切なのは、それが起きていると自覚することです。 自覚できていれば、判断の基準を意識的に「医院にとっての最善」に引き戻すことができます。

厄介なのは、この負い目は当の本人にはなかなか自覚しづらいという点です。「合理的に考えて先送りにしている」と自分では思っていても、周りから見ると明らかに感情が判断を鈍らせている、というケースを何度も見てきました。もし今、ずっと先送りにしている経営判断があるなら、一度「これは本当に合理的な理由で保留にしているのか、それとも親の反応を恐れているだけなのか」と自問してみることをおすすめします。

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親子承継が第三者承継と根本的に違う理由

事業承継のコンサルティングの現場でも、親子承継は最も感情面のケアが必要なケースだと言われています。第三者承継であれば、契約や条件をドライに交渉できますが、親子の間では「言わなくても分かってほしい」という期待がお互いにあり、それがすれ違いの温床になります。

さらに厄介なのは、スタッフの目から見ても、新院長がいつまでも「先代の息子・娘」として扱われ続けやすいという点です。前院長との比較は第三者承継でも起こりますが、親子承継の場合はスタッフの中に先代への私的な思い入れが強く残っていることが多く、比較の視線がより長く続く傾向があります。この構造については前院長と比較される二代目院長の対処法5選でも詳しく取り上げていますので、あわせてご覧ください。

家族という関係性は本来、経営とは切り離された領域にあるべきものです。しかし医院という職場では、プライベートな親子関係と、経営者としての上下関係が同じ空間に同居してしまいます。この「二重構造」こそが、親子承継特有の難しさを生み出しているのです。

事業承継の専門家の間でも、親族内承継は他の承継形態に比べて感情面での調整コストが高いと指摘されることが多く、その多くはこの「二重構造」に起因しています。経営権の移譲というビジネス上の手続きは書類一枚で完了しても、親子という関係性はそう簡単には切り替わりません。手続き上は院長が交代しても、心理的な力関係が交代するまでにはもっと長い時間がかかるという前提を持っておくことが、無用な焦りを減らす助けになります。

難しさを生む3つの構造的原因

親子承継の難しさを整理すると、大きく3つの原因に分けられます。

一つ目は、先ほど述べた「親に認めてもらいたい」という感情が、経営判断を歪めてしまうことです。これは意思決定の速度と質、両方に影響します。

二つ目は、スタッフが新院長を独立した経営者として見るまでに時間がかかることです。特に先代の代から長く勤めているスタッフほど、「小さい頃から知っている息子・娘」というイメージを引きずりやすく、無意識のうちに新院長を軽んじる態度が出てしまうことがあります。

三つ目は、先代が経営から完全に退かず、院内に居続けるケースが多いことです。第三者承継であれば前任者は明確に医院を去りますが、親子承継では親が非常勤で診療を続けたり、経営会議に顔を出し続けたりすることが珍しくありません。これ自体は悪いことではありませんが、権限の線引きが曖昧なままだと、スタッフは「結局どちらの指示に従えばいいのか」と混乱してしまいます。

私がサポートさせていただいたある医院でも、先代が週に2日診療を続けており、新院長の方針とわずかに異なる指示をスタッフに出してしまうことがありました。悪気はなくても、指示系統が二重になっている状態は、スタッフにとって非常にストレスの大きい環境なのです。

解決の鍵は「親子関係」と「経営関係」を分けて考えること

この難しさを乗り越える鍵は、心理学者アルフレッド・アドラーが説いた「課題の分離」という考え方にあります。親子としての感情的な結びつきと、経営者として下すべき判断とは、本来別々の課題であると意識的に線引きをすることが出発点になります。

具体的には、「この判断は医院経営者としての課題」「この会話は親子としての課題」というように、その場面ごとに自分がどちらの立場で話しているのかを意識してみてください。課題の分離という考え方そのものについては院長がスタッフの問題を抱え込む理由と課題の分離で詳しく解説していますが、これは親自身との関係にも同じように応用できます。

また、先代である親との間で、経営権限についてできるだけ早い段階で明確な線引きをしておくことも重要です。「診療については引き続き相談したいが、経営判断は自分が最終決定者である」というように、役割を言葉にして共有しておくと、スタッフに対しても一貫したメッセージを発信しやすくなります。

親子だからこそ、あえて言葉にしないと伝わらないことがあります。 家族の間では「言わなくても分かるはず」という甘えが生まれやすいからこそ、経営に関することは意識的に言語化する必要があるのです。

私自身、家族に対して「言わなくても察してほしい」と期待してしまい、伝わらないことに勝手に傷ついていた時期がありました。しかし振り返ってみると、相手に非があったわけではなく、単に私が言葉にする努力を怠っていただけだったのだと気づきました。近い関係だからこそ、あえて丁寧に言葉を尽くす必要がある——この気づきは、親子承継に悩む院長先生にも、そのままお伝えしたいことです。

今日からできる具体的なアクション

まず取り組んでいただきたいのは、先代である親との間で「経営における役割分担」について、一度きちんと話す時間を持つことです。感情的な話し合いにならないよう、あらかじめ話すテーマを紙に書き出しておくと落ち着いて話しやすくなります。診療の場や食卓ではなく、あえて改まった場を設定することも、話の内容を「経営の話」として位置づける上で効果的です。

次に、スタッフに対しては、経営判断の最終責任者が誰であるかを明確に伝える機会を作ってください。朝礼やミーティングの場で、あらためて自分の言葉で方針を語ることは、単なる報告以上に「自分が経営者である」という自覚をスタッフにも自分自身にも根付かせる効果があります。一度で完全に浸透するものではないので、機会があるたびに繰り返し伝えていく姿勢が大切です。

最後に、スタッフとの関係についても触れておきます。新院長としての立場を早く確立したいなら、2代目院長がスタッフの信頼を得る5つの方法で紹介しているような、小さな信頼の積み重ねを日々意識することが近道になります。親からの評価と、スタッフからの信頼は、まったく別の軸で育てていくものだと理解しておくことが大切です。

そして何より、「親に認めてもらうこと」と「良い経営者であること」は、必ずしもイコールではないと自分に許可を出すことが大切です。この許可は、自分一人ではなかなか出しにくいものです。家族という最も身近な関係だからこそ、客観的な第三者に話を聞いてもらうことで、初めて整理できる感情もあります。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。

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よくある質問

Q1. 親を否定しているようで、経営方針を変えるのが怖いです

方針を変えることは、親の人格やこれまでの功績を否定することとは別の話です。医院を取り巻く環境や患者層、スタッフ構成は時間とともに変化しており、経営判断を今の状況に合わせて更新することは、後継者として当然の役割です。

Q2. 先代がまだ診療を続けており、指示が食い違うことがあります

早い段階で「診療上の相談」と「経営判断」の範囲を明確に分け、経営に関する最終決定権が誰にあるかをスタッフにも周知しておくことをおすすめします。曖昧なままにしておくほど、後から線引きをするのが難しくなります。

Q3. スタッフがいつまでも自分を「先生の息子・娘」として見てきます

時間だけで自然に解決することは少なく、院長自身が方針や判断を一貫して発信し続けることで、少しずつ「経営者」としての認識に置き換わっていきます。焦らず、しかし意識的に発信を続けることが大切です。

Q4. 親との関係と、経営者としての自分をどう切り分ければいいですか

すべてを完璧に切り分ける必要はありません。まずは「これは親子の会話か、経営の会話か」を自分の中で一度立ち止まって確認する習慣をつけるだけでも、判断の質は大きく変わってきます。

Q5. 親に経営のやり方を否定されているようで、素直に相談できません

否定されることを恐れて相談を避け続けると、かえって溝が深まりやすくなります。まずは結論を求める相談ではなく、「今こう考えているが、どう思うか意見を聞かせてほしい」という形で、判断はあくまで自分が下すという前提を保ったまま対話してみることをおすすめします。相談することと、決定権を明け渡すことは別物だと意識してみてください。

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この記事を書いた人

梅田 亮のアバター 梅田 亮 代表取締役

株式会社PlumChan 代表取締役。医科・歯科専門でコーチング技術を用いたコミュニケーション研修やスタッフ面談代行を行い、心理的安全性の高い職場づくりを行っています。

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