「自分の言葉が、なぜかうまく届かない」と感じたら
スタッフのほとんどが女性という歯科医院で、二代目・三代目として院長になった先生から、こんな相談をよくいただきます。「悪気なく言ったつもりの一言で、翌日から空気が変わった」「注意したいことがあっても、どう伝えればいいか分からず飲み込んでしまう」「男性は自分一人で、輪の中に入れている気がしない」。
歯科医院は歯科衛生士・歯科助手・受付スタッフの多くを女性が占める、女性比率の高い職場です。厚生労働省の統計でも歯科衛生士の大半が女性であることが示されており、これは他の医療職と比べても際立った特徴です。前院長の時代から働くベテランスタッフが多い医院ほど、そこには長年かけて築かれた独自の人間関係の文化があり、新しく院長になった先生がその輪に入っていくのは簡単なことではありません。
私自身、組織づくりの支援をする中で、男性院長から「女性ばかりの職場でどう振る舞えばいいのか、正解が分からない」という声を数えきれないほど聞いてきました。実はこれは、その院長個人のコミュニケーション能力の問題ではなく、職場の構造を理解しないまま、これまでのやり方を続けてしまっていることが原因であるケースがほとんどです。この記事では、女性スタッフが多い歯科医院で院長が気をつけたいポイントと、コーチングの視点からできる具体的な関係づくりの方法をお伝えします。
「性別の違い」ではなく「職場の力学」を理解する
女性が多い職場のコミュニケーションというと、つい「女性はこう考える」といった一般論で片づけたくなりますが、そこに落とし穴があります。大切なのは性別そのものではなく、その職場で長年かけて形成されてきた人間関係の力学(パワーバランス)を理解することです。
歯科医院では、院長よりも勤続年数の長いベテランスタッフが、実質的にチームの中心的な役割を担っていることが少なくありません。年齢や経験で場の空気を作る人がいて、新人はその空気を読みながら振る舞う——こうした暗黙の序列やルールは、外部から来た院長にはなかなか見えません。「自分は歓迎されていないのでは」と感じるとき、実際に起きているのは拒絶ではなく、単に既存の力学に新しい変数がまだ組み込まれていないだけ、ということがほとんどです。
以前ご相談いただいた院長は、「スタッフが自分にだけよそよそしい」と悩んでいました。しかし詳しく話を伺うと、実際にはスタッフ同士の間でも独自の序列や距離感があり、院長だけが特別に避けられているわけではないことが分かりました。自分が原因だと思い込みすぎず、まず職場全体の関係性を俯瞰して見てみることが、解決の第一歩になります。
放置するとどうなるか|関係づくりを後回しにするリスク
「そのうち自然に打ち解けるだろう」と関係づくりを後回しにしてしまうと、時間が経つほど状況は変わりにくくなります。最初の数ヶ月で築かれなかった距離感は、そのまま職場の「デフォルト」として固定化されやすいからです。院長が輪の外側にいる状態が続くと、重要な情報がスタッフ同士の間だけで共有され、院長には後から伝わる、あるいは伝わらないという事態も起こり得ます。
さらに、指摘や指示が届きにくい関係のまま診療現場が回っていくと、医療安全やサービス品質にも影響が及びます。院長の意図がスタッフに正しく伝わらない状態は、患者対応のばらつきという形で表面化しやすいからです。逆に言えば、関係づくりに投資した分だけ、診療現場の一体感や対応の質にも良い変化が返ってくるということでもあります。
男性院長がつまずきやすい3つの原因
原因1|「察してほしい」を前提にした指示の伝え方
診療現場では、多くを語らずとも以心伝心で回っていた時代もあったかもしれません。しかし世代や価値観が多様化した今、「言わなくても分かるはず」という前提は、伝わらないコミュニケーションの最大の原因になります。特に男性院長が無意識に使いがちな「察してくれ」型の指示は、スタッフ側からすると「何を求められているのか分からない」という不安につながりやすいものです。
原因2|フィードバックを避けてしまうこと
「女性スタッフに強く言うと辞めてしまうのでは」という不安から、注意すべき場面でも指摘を避けてしまう院長は少なくありません。しかし必要な指摘を避け続けることは、優しさではなく、スタッフが成長する機会を奪うことにもつながります。また、一部のスタッフにだけ指摘をしないことで、他のスタッフから「不公平だ」と受け取られ、かえって関係がこじれるケースもあります。
原因3|輪の外側から指示を出そうとしてしまうこと
日々の雑談や何気ない会話の積み重ねがないまま、業務の指示や評価だけを伝えようとすると、スタッフからは「業務のときだけ話しかけてくる人」という印象を持たれがちです。信頼関係は、業務外の何気ないやり取りの積み重ねの上に築かれます。輪の外側に立ったまま指示だけを出そうとしても、その言葉はなかなか届きません。先代の院長が長年かけて築いた関係性を、後継の院長がゼロから作り直す必要があることを忘れてはいけません。それは前院長が優れていたからではなく、単純に積み重ねてきた時間の差によるものです。焦る必要はなく、これから積み重ねていけばよいのだと捉え直すことが、気持ちを楽にする第一歩になります。
コーチングの視点からできる関係づくり
「伝える」ではなく「聞く」から始める
コミュニケーション改善というと、うまく話す技術を身につけようと考えがちですが、まず取り組むべきは逆です。院長が話す割合を減らし、スタッフの話を聞く割合を増やすことが、信頼関係構築の第一歩になります。1on1の場では、業務の進捗確認だけでなく、「最近どう?」「困っていることはある?」といったオープンな問いかけから始めてみてください。最初はぎこちなくても、続けることで少しずつ本音が出やすくなっていきます。話を聞く際は、途中で口を挟んでアドバイスしたくなる気持ちをぐっとこらえることも大切です。求められていないアドバイスは、時に「話を聞いてもらえなかった」という印象だけを残してしまいます。まずは最後まで聞き切ることを意識してみてください。
フィードバックは「事実」と「期待」をセットで伝える
指摘を避けるのではなく、伝え方を工夫することが解決策です。コーチングでは、感情や人格を評価するのではなく、「起きた事実」と「次にどうしてほしいかという期待」をセットで伝えることを基本とします。たとえば「なんでできないの」ではなく、「先週この対応で患者さんから質問があった。次回は事前にこう伝えてもらえると助かる」という形にするだけで、受け取り手の印象は大きく変わります。人格や能力そのものを評価する言葉を避け、行動と事実にフォーカスするだけで、指摘は「攻撃」から「サポート」に変わります。この伝え方は一度身につければ、フィードバック以外のあらゆる場面でも応用できる、汎用性の高いスキルです。
業務外の小さな接点を意図的につくる
輪の中に入ろうと気負う必要はありません。朝の短い挨拶に一言添える、体調や忙しさを気にかける一言をかける、季節の変化についてひとこと話す——特別なイベントではなく、日常の中の小さな接点の積み重ねが、最も効果的な関係構築の方法です。回数を重ねることで、業務の話もしやすい土台が自然にできていきます。苦手意識がある場合は、無理に会話を広げようとせず、まず「挨拶に一言添える」ことだけを1週間続けてみるのもおすすめです。小さな習慣が定着すると、次の一歩は自然と踏み出しやすくなります。
完璧な正解を求めすぎない
関係づくりに取り組む院長ほど、「正しいやり方」を追い求めて慎重になりすぎる傾向があります。しかし人間関係に唯一の正解はありません。大切なのは、一度の失敗で諦めず、試行錯誤を続ける姿勢そのものです。うまく伝わらなかった日があっても、翌日また挨拶をする、翌週また1on1を行う——この継続こそが、遠回りに見えて最も確実な方法です。
今日からできる5つの具体的アクション
1つ目は、次の指示を出す際に「なぜそうしてほしいのか」という理由を一言添えてみることです。2つ目は、直近で指摘を避けてしまった場面を思い出し、事実と期待をセットにした伝え方で改めて伝えてみることです。3つ目は、業務と関係のない一言を、今日中に誰か一人にかけてみることです。4つ目は、1on1面談で「最近困っていることはある?」とだけ聞いて、あとは黙って聞くことです。5つ目は、自分の振る舞いを客観的に見直すために、コーチや外部の専門家に一度話を聞いてもらうことです。一人で「正解」を探し続けるより、外部の視点を借りるほうが、変化はずっと早く訪れます。この5つのうち、まずは1つか2つ、無理なく続けられそうなものから始めてみてください。完璧を目指す必要はなく、続けることそのものに意味があります。
まとめ|違いを理解することが、信頼への近道
女性スタッフが多い歯科医院で、男性院長が距離を感じてしまうのは、決して珍しいことではありません。大切なのは、性別の違いを乗り越えようと構えることではなく、その職場に積み重ねられてきた人間関係の力学を理解し、少しずつ接点を増やしていくことです。指示の伝え方を見直し、フィードバックを恐れず、業務外の小さな会話を積み重ねる——この地道な積み重ねが、やがて大きな信頼につながっていきます。
とはいえ、渦中にいる院長自身が、自分の振る舞いを客観的に振り返るのは簡単ではありません。第三者の視点を借りることで、見えていなかった課題に気づけることも多くあります。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
💡 女性スタッフとの関係づくり、伴走します
よくある質問(FAQ)
Q1. 女性スタッフとの距離感がうまくつかめません。どうすればいいですか?
特別な距離の詰め方を探すより、日常の小さな挨拶や気遣いの言葉を積み重ねることが近道です。焦らず継続することが信頼につながります。
Q2. 注意すると辞められそうで怖いです。指摘しないほうがいいのでしょうか?
指摘を避け続けることは、かえって不公平感や不信感を生みます。事実と期待をセットにした伝え方を工夫することで、関係を損なわずに必要な指摘ができます。
Q3. ベテランの女性スタッフが中心のチームで、院長として輪に入れません。
無理に輪の中心に入ろうとせず、まずは個別の1on1で関係を築くことから始めてみてください。チーム全体より、一人ひとりとの関係の積み重ねが土台になります。
Q4. 男性である自分には、女性スタッフの気持ちが根本的に理解できない気がします。
完全に理解しようとする必要はありません。理解できない部分があることを前提に、丁寧に聞く姿勢を持ち続けることの方が重要です。
Q5. コーチングを受けることで、具体的に何が変わりますか?
自分では気づきにくい話し方や振る舞いのクセを客観的に指摘してもらえるほか、フィードバックの伝え方など具体的なコミュニケーション技術を身につけられます。
Q6. スタッフ全員と均等に関係を築く時間がありません。
すべてを一度にやろうとせず、1on1のスケジュールを月単位で計画的に組むことをおすすめします。仕組み化することで、忙しい日々でも継続しやすくなります。
Q7. 前院長は特に意識せずスタッフとうまくやっていたようです。それでも今からの努力は必要ですか?
必要です。前院長の関係性は長年の積み重ねの結果であり、今の院長がゼロから同じ関係を築くには、意識的な取り組みが欠かせません。焦らず、今日からの積み重ねを大切にしてください。
一人で抱え込まず、まずはお話を聞かせてください


