「採用してもまた辞める」を繰り返していませんか
求人媒体に何十万円もかけて、ようやく採用が決まった。ホッとしたのも束の間、半年も経たずに「実は…お話があります」と切り出される。そしてまた求人広告を出し、面接をし、教育をやり直す。この繰り返しに、心当たりがある院長は少なくないはずです。診療の合間を縫って面接日程を調整し、やっと入った新人に付きっきりで教えたのに、また一から探し直しになる。そのたびに院長自身の時間も気力も削られていきます。
スタッフの定着とは、採用した人が辞めずに働き続け、医院の一員として力を発揮している状態のことを指します。ところが多くの医院がこの定着を後回しにし、「人が足りない」から「とにかく採用しよう」という順番で動いてしまいます。定着しない土壌に新しい人を迎えても、結果は変わりません。むしろ、教える側のベテランスタッフの疲弊だけが積み重なっていきます。
私自身も、コーチとして独立する前は組織の中で「なぜこんなに人が入れ替わるのだろう」と疑問に思いながら、目の前の欠員補充にひたすら追われていた時期がありました。求人広告の出稿から面接、内定者フォローまで全部自分でこなし、やっと入社した人がまた数ヶ月で辞めていく。採用を頑張れば頑張るほど疲弊していく感覚を、身をもって知っています。採用を頑張る前に、まず「なぜ人が居着かないのか」に向き合う必要があるのです。
この記事では、採用より先に定着を直すべき理由と、明日から着手できる具体的な方法を、実際の医院支援での事例を交えてお伝えします。
定着率が低いままの医院で起きている本当の問題
定着率が低い医院で本当に起きているのは、単なる「人手不足」ではありません。「教える→辞める→また教える」のループが、医院全体の体力を静かに奪っているという問題です。
新人が入るたびに、ベテランスタッフが自分の業務を止めてOJTに時間を割きます。ようやく独り立ちしたころに退職され、また一からやり直し。この繰り返しの中で、教える側のスタッフにも「どうせまた辞めるんだろうな」という諦めが生まれ、次第に新人への関わり方も淡白になっていきます。結果として新人はさらに定着しにくくなるという、負の連鎖です。
厚生労働省の雇用動向調査でも、医療・福祉業界の離職率は他産業と比べて高い水準で推移し続けており、歯科医院も例外ではありません。私が関わったある医院では、この3年間で歯科衛生士だけで7人が入れ替わり、院長いわく「もう誰の名前を覚えればいいのか分からなくなった」という状態にまで陥っていました。カルテの引き継ぎも患者さんとの関係も、そのたびにゼロからのスタートです。これは個人の資質の問題ではなく、組織としての「受け皿」が壊れているサインです。
この状態を放置したまま採用活動だけを強化しても、穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるのと同じことになってしまいます。まず塞ぐべきは穴のほうなのです。
採用より定着を優先すべき3つの理由
なぜ「まず定着」なのでしょうか。理由は大きく3つあります。
理由1:採用コストは上がり続けている
歯科衛生士の有効求人倍率は20倍を超える水準が続いていると各種調査で報告されており、1人採用するための広告費・人材紹介の手数料・面接や見学対応にかかる工数は年々膨らんでいます。定着しない医院ほど、この高いコストを何度も払い続けることになります。採用は「一度で終わる投資」ではなく、定着しなければ何度でも発生し続ける固定費なのです。採用にかけた金額だけを見て「今回は運が悪かった」で済ませてしまうと、同じ出費が毎年繰り返されます。
理由2:定着しない医院には、そもそも人が集まらない
歯科衛生士同士のコミュニティやSNSでの口コミは、想像以上に狭く、密です。「あの医院はすぐ辞める人が多い」という評判は驚くほど速く広がり、応募数そのものが減っていきます。採用力の正体は求人広告の見せ方ではなく、今いるスタッフが「ここで働き続けたい」と思えているかどうかです。若手スタッフとの関わり方を見直すことは、実は最大の採用対策でもあります。若手スタッフの早期離職を防ぐ5つの方法でも触れているように、既存スタッフの定着改善は次の採用の追い風になります。
理由3:辞める原因を放置したまま採用しても、同じことが繰り返される
離職の根っこにある原因(人間関係、教育体制、コミュニケーション不足など)を直さないまま新しい人を迎えても、その人もいずれ同じ理由で辞めていきます。採用は「症状への対処」、定着改善は「原因への対処」です。原因を放置したままの採用は、痛み止めを飲み続けて根本の治療を先延ばしにしているのと同じ状態だと言えます。
定着率が低い医院に共通する3つの原因
では、定着を妨げている原因はどこにあるのでしょうか。多くの医院を見てきた中で、共通するパターンが3つあります。
原因1:院長やリーダーとの対話の機会がない
日々の診療に追われ、スタッフと1対1でじっくり話す時間が取れていない医院は少なくありません。不満や不安が積み重なっても、それを表に出す場がなければ、ある日突然「辞めます」という形でしか表面化しないのです。ある院長は「毎日顔を合わせているから、話はできていると思っていた」と話していましたが、診療中の業務連絡と、本音を話せる対話はまったく別物です。診療室では患者さんの前で込み入った話はできませんし、休憩時間も交代制で全員が揃うことはほとんどありません。結果として、院長が思っている以上にスタッフとの対話量は少なくなっているのです。
原因2:教育の仕組みが個人任せになっている
「見て覚えて」という属人的な指導スタイルのままでは、教える人によって内容がバラバラになり、新人は「自分だけ置いていかれている」と感じやすくなります。教育の仕組み化は、新人を守るためだけでなく、教える側の負担を減らすためにも必要です。教育担当者が変わるたびに指導方針も変わってしまう医院では、新人が「前の人はこう言っていたのに」と混乱し、それがそのまま早期離職の引き金になることもあります。教育の型づくりについては歯科医院の新人教育|OJTで定着率を上げる方法で具体的な手順を紹介しています。
原因3:「頑張っても報われない」と感じさせる職場の空気
正当に評価されている実感がない、意見を言っても何も変わらない、という職場では、スタッフは次第に発言をやめていきます。これは表向きには何も問題が起きていないように見えるため、院長が異変に気づくのが遅れがちです。静かな不満は、退職の申し出という形で突然表面化します。普段は明るく振る舞っていたスタッフほど、限界まで我慢したうえで辞める決断をしていることが多く、周囲も院長も驚くケースが目立ちます。日頃からスタッフの表情や口数といった小さな変化に目を配ることが、早期発見の鍵になります。
定着率を上げるためにいますぐできる解決策
原因が分かれば、打ち手は見えてきます。ここでは3つの具体策と、採用コストと定着改善コストの比較を見ていきましょう。
解決策1:月1回、15分でいいので1対1の対話の場をつくる
評価面談のような堅苦しい場ではなく、「最近どう?」と気軽に聞ける時間を定期的に確保します。内容よりも「継続していること」自体が重要です。話す内容は仕事のことだけに絞らず、体調やプライベートの近況など、雑談に近いところから始めると本音が出やすくなります。続けること自体が、あなたを気にかけているというメッセージになります。
解決策2:教育の手順を「型」にして誰でも教えられるようにする
チェックリストや手順書、簡単な動画マニュアルなど、教える内容を属人化させない仕組みを作ります。これにより新人の不安が減るだけでなく、教える側の心理的な負担も軽くなり、離職連鎖に歯止めがかかります。
解決策3:小さな変化でもスタッフの声を反映させる
意見箱やアンケートを形だけで終わらせず、実際に1つでも変えた実績を見せることが重要です。「言っても無駄」から「言えば変わる」への転換こそが、定着への一番の近道です。
私が支援した医院では、この3つを半年続けただけで、歯科衛生士の平均在籍期間が1.8倍に伸びました。特別なことをしたわけではなく、「聞く」「教える」「反映する」という当たり前を仕組みにしただけです。院長自身も「スタッフから話しかけてくれる回数が増えた」と変化を実感していました。
採用にかかるコストと、定着改善にかかるコストの目安を比較すると、次のようになります。
| 項目 | 採用でカバーする場合 | 定着改善でカバーする場合 |
|---|---|---|
| 主なコスト | 求人広告費・紹介手数料(1人あたり数十万円規模) | 面談時間・仕組みづくりの工数 |
| 効果が出るまで | 応募〜採用まで数ヶ月、その後定着するかは不透明 | 数ヶ月で職場の空気に変化が見え始める |
| 繰り返しリスク | 定着しなければ何度でも発生する | 一度仕組み化すれば継続的に効果が持続する |
こうして比較すると、採用は「その都度お金と時間がかかる買い切り型」、定着改善は「最初に手間をかければ効果が積み重なる仕組み型」だということが分かります。目先の欠員を埋めることだけを考えると、いつまでも買い切り型から抜け出せません。
定着率改善を仕組み化する具体的アクションステップ
最後に、明日から始められる順番をお伝えします。
まず、今在籍しているスタッフ全員と、今月中に一度15分ずつ話す時間を作ってください。次に、そこで出てきた「困っていること」を3つに絞り、1つだけでもいいので今月中に改善します。そして、その改善が「みんなの声で変わった」と伝わる形でスタッフに共有します。この3ステップを毎月繰り返すことが、定着率改善の仕組み化です。
職場全体の心理的な土台づくりについては、歯科医院の心理的安全性|スタッフが辞めない組織づくりもあわせてご覧いただくと、より具体的なイメージが持てるはずです。焦って全部を一度に変えようとせず、まずは1つの対話から始めてみてください。
採用は大切な打ち手のひとつですが、それだけに頼っていては医院は疲弊していく一方です。まず足元の定着を直す。それができて初めて、採用は「穴埋め」ではなく「成長のための投資」に変わります。一人で抱え込まず、まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
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よくある質問
Q1. 定着率と離職率、どちらを指標にすればいいですか?
どちらも重要ですが、まずは「入社から1年後に何%が在籍しているか」という定着率を追うことをおすすめします。離職率は結果として表れる指標であるのに対し、定着率は日々の関わり方の成果がより見えやすい指標だからです。半年後・1年後・3年後と時点を分けて記録しておくと、どの時期に離職が集中しやすいかも見えてきます。
Q2. スタッフとの面談で本音が出てきません。どうすればいいですか?
いきなり本音を求めるのではなく、まずは雑談レベルの会話を重ねて安心感を作ることが先決です。質問攻めにせず、院長自身が先に自分のことを少し話してみるのも、心を開いてもらうきっかけになります。
Q3. 小規模な医院でも仕組み化は必要ですか?
むしろ小規模な医院ほど、1人の離職が与える影響が大きいため仕組み化の効果が出やすい傾向があります。人数が少ないからこそ、対話の機会を確保しやすいという利点もあります。難しく考えず、まずは今のメンバー構成でできる範囲から始めれば十分です。
Q4. 定着改善に取り組んでも効果が出るまでどれくらいかかりますか?
早ければ1〜2ヶ月で職場の雰囲気に変化が見え始め、定着率という数字に表れるまでには半年程度を見ておくとよいでしょう。焦らず継続することが何より重要です。
Q5. 院長一人でこの取り組みを続けるのが難しいと感じています。
多くの院長が同じように感じています。診療をこなしながら経営もスタッフケアも一人で担うのは、想像以上に負荷の大きいことです。第三者が定期的にスタッフの声を引き出し、院長と共有する仕組みを取り入れることで、負担を分散しながら継続できるようになります。
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