「せっかく育てた歯科衛生士がまた辞めてしまった」「求人を出しても応募が来ない」。歯科医院の経営において、スタッフの離職ほど院長を消耗させるものはありません。給与を上げても、休みを増やしても、なぜか人が定着しない。そんな状態が続いているなら、原因は待遇面ではなく、もっと根の深いところにあるかもしれません。
歯科衛生士の離職理由で最も多いのは、給与でも労働時間でもなく、人間関係です。このことは、院長個人の感覚だけでなく、業界団体の調査でも繰り返し指摘されている事実です。「うちは給与も悪くないのに、なぜ辞めるのか」と悩んでいる院長ほど、この事実に向き合う必要があります。
まず結論からお伝えすると、歯科衛生士の離職理由1位とは、給与や勤務条件ではなく、院長やスタッフとの人間関係にまつわる不満を指します。私自身、人間関係のこじれによってチームが崩れていく現場を見てきた一人として、この構造を丁寧に紐解いていきたいと思います。
データで見る歯科衛生士の離職の実態
公益社団法人日本歯科衛生士会が実施した「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」(令和2年3月公表)では、常勤の歯科衛生士における職場変更の理由として、「経営者との人間関係」が最も多い割合を占めたと報告されています。出産・育児や結婚といったライフイベントによる離職も一定数ある一方で、経営者との人間関係は、これらのライフイベントとは異なり、院長の関わり方次第で防げる離職だという点が重要です。
また、複数の歯科業界メディアの調査でも、歯科衛生士全体の約8割が転職を一度は経験しているというデータが示されており、歯科衛生士にとって転職は決して特別なことではなく、身近な選択肢になっていることがうかがえます。だからこそ、「辞めたい」という気持ちが芽生えた瞬間に、すぐ行動に移せる土壌が業界全体にできているという前提で、医院づくりを考える必要があります。
| 主な離職・転職理由 | 特徴 |
|---|---|
| 経営者・院長との人間関係 | 常勤歯科衛生士で最多。院長の関わり方で防止可能 |
| 出産・育児、結婚 | ライフイベントによるもの。完全な防止は難しい |
| 仕事内容のレベルアップ | キャリア志向によるもの。院内での成長機会提供で緩和可能 |
| 給与・待遇面 | 他院との比較による不満。ただし優先度は人間関係より低い傾向 |
出典:公益社団法人日本歯科衛生士会「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」(令和2年3月)
特に2代目・3代目として医院を承継したばかりの院長先生にとって、この事実は見過ごせません。前院長の時代から働いているベテラン歯科衛生士は、経営者が変わったことに敏感で、これまでとは違う空気を感じ取った瞬間に離職を検討し始めます。待遇を変えていなくても、「経営者が変わった」というだけで離職リスクは上がるということを、まず前提として押さえておく必要があります。
歯科衛生士が「ここでずっと働きたい」と感じる医院の共通点
離職理由の裏側には、定着している医院に共通する特徴も見えてきます。私がこれまでスタッフとの人間関係に悩む院長先生方と関わってきた中で、定着率の高い医院にはいくつか共通点がありました。ひとつは、院長が診療中以外の時間でも積極的に声をかけていること。もうひとつは、スタッフの意見が実際に医院運営に反映される仕組みがあること。そしてもうひとつは、失敗が起きたときに個人を責めるのではなく、仕組みの問題として扱う文化があることです。
これらに共通するのは、「自分の存在が医院にとって意味がある」と実感できるかどうかという一点です。技術力の高さや給与水準以上に、この実感の有無が定着を左右します。逆に言えば、これらは特別な設備投資をしなくても、院長の関わり方だけで今日から変えられる部分でもあります。
なぜ「人間関係」が離職理由の1位になるのか。3つの原因
原因1|院長との距離感、忙しさゆえのコミュニケーション不足
診療に追われる毎日の中で、院長がスタッフ一人ひとりとじっくり話す時間を確保するのは簡単ではありません。しかし、この「忙しいから後回し」という判断が積み重なると、歯科衛生士は「自分は見てもらえていない」という孤独感を抱えるようになります。忙しさは、人間関係が壊れる言い訳にはなりません。むしろ忙しい医院ほど、意識的にコミュニケーションの時間を確保する必要があります。
原因2|古参スタッフとの力関係、板挟みになる若手
院内に長く勤めるベテランスタッフの発言力が強く、新しく入った歯科衛生士がその空気に馴染めずに孤立してしまうケースも少なくありません。院長が古参スタッフに気を遣うあまり、若手の声を拾いきれていないと、若手は「ここには自分の居場所がない」と感じ、静かに転職活動を始めてしまいます。歯科医院の新人教育|OJTで定着率を上げる方法でも触れているとおり、入職直後のフォロー体制の有無が定着率を大きく左右します。
原因3|フィードバックの仕組みがなく、成長を実感できない
歯科衛生士は専門職であり、技術や知識の向上に対する意欲が高い傾向があります。にもかかわらず、日々の業務の中で「できるようになったこと」を院長から言葉で伝えられる機会がほとんどない医院は少なくありません。成長を実感できない環境では、たとえ人間関係に大きな問題がなくても、「ここにいても自分は成長できない」という漠然とした不安が離職の引き金になります。
例えば、ある医院で実際にあった話ですが、院長は「注意すべき点」ばかり伝えていて、「できるようになった点」はほとんど言葉にしていませんでした。悪気はなく、単に「できて当然」と思っていただけなのですが、スタッフ側からすると「自分は否定されてばかりだ」という印象が積み重なっていたのです。院長がフィードバックの内容を「注意」と「承認」で半々に意識するよう変えただけで、スタッフの表情が明らかに変わったという話を伺ったことがあります。言葉にしなければ、伝わっている前提は成り立ちません。
離職の予兆を見逃さないためのサイン
離職は、ある日突然決まるものではなく、多くの場合、その前に小さなサインが現れています。発言が減る、雑談に加わらなくなる、遅刻や欠勤が増える、これまで積極的だった業務改善提案がなくなる、といった変化は、静かなSOSであることが多いです。私自身、コーチとして経営者の相談を受ける中で、「辞めると聞いて初めて異変に気づいた」という声を何度も耳にしてきました。変化に気づけるかどうかは、日頃どれだけスタッフを見ているかにかかっています。
今日からできる具体的なアクション
原因が分かっても、行動に移さなければ何も変わりません。ここでは今日から始められる3つのアクションをご紹介します。
1つ目は、月に1回、短時間でもいいので1対1で話す機会を設けることです。業務の話だけでなく、「最近どう?」という一言から始めるだけで、スタッフは「見てもらえている」と感じます。進め方の型は1on1ミーティングの導入方法【7ステップ】が参考になります。2つ目は、できたことを具体的に言葉にして伝えることです。「ありがとう」だけでなく、「あの説明の仕方、患者さんに伝わりやすかったよ」と具体的に伝えることで、成長実感につながります。3つ目は、院長自身が弱さや失敗を開示することです。院長が完璧であろうとするほど、スタッフは本音を言いにくくなります。
この3つに共通しているのは、特別なスキルや予算を必要としないという点です。今日の診療後、5分だけスタッフに声をかけることから始められます。小さな行動でも、続けることで確実に空気は変わっていきます。大切なのは、一度やって終わりにせず、習慣として定着させることです。
これらはすべて、心理的安全性の作り方にも通じる考え方です。「何を言っても大丈夫だ」という安心感こそが、離職を防ぐ最大の土台になります。
採用より先に、定着を直すべき理由
歯科衛生士の有効求人倍率は高止まりが続いており、採用そのものが年々難しくなっています。新しく1人採用するには、求人広告費や研修コストを含めて数十万円単位の費用がかかることも珍しくありません。にもかかわらず、離職の原因を放置したまま採用だけを頑張っても、同じ理由でまた辞めてしまう「ザルに水を注ぐ」状態が続いてしまいます。採用にお金と時間をかける前に、今いるスタッフが辞めたくなる理由を1つでも減らすほうが、はるかに効果的で低コストです。
さらに言えば、離職と採用の繰り返しは、金銭的なコスト以上に、院内の雰囲気にダメージを与えます。人が頻繁に入れ替わる医院では、残ったスタッフが新人教育の負担を抱え続けることになり、「またすぐ辞めるかもしれない」という不信感が院内に漂うようになります。この空気そのものが、次の離職を呼び込む悪循環を生みます。定着率を上げることは、単なるコスト削減ではなく、医院の文化を守る取り組みでもあるのです。
まとめ|人間関係の課題は、院長の関わり方で変えられる
歯科衛生士の離職理由の1位が人間関係であるという事実は、裏を返せば、院長の関わり方次第で防げる離職があるということでもあります。コミュニケーション不足、古参スタッフとの力関係、成長実感の欠如。これらは特別な才能がなくても、日々の小さな行動の積み重ねで変えていくことができます。
一人で抱え込まず、まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。院内の状況を客観的に整理するところから、一緒に始めていきましょう。
💡 スタッフとの関係づくりに悩んだら
よくある質問
Q1. 給与を上げれば離職は防げますか。
給与の改善は一定の効果がありますが、人間関係への不満が根本原因である場合、給与を上げても離職は防げません。むしろ、待遇を改善しても辞めていくスタッフが出ると、院長は「何が悪かったのか分からない」という状態に陥りやすくなります。人間関係の課題を先に見直すことをおすすめします。
Q2. 忙しくて1対1で話す時間が取れません。どうすればいいですか。
15分でも構いません。時間の長さより、頻度と継続性のほうが重要です。診療の合間や終業後の短い時間を月1回確保するだけでも、スタッフの安心感は大きく変わります。
Q3. ベテランスタッフとの力関係が原因で若手が辞めていきます。どう対処すべきですか。
院長が間に入り、双方の言い分を個別に聞く場を設けることが第一歩です。ベテランを否定するのではなく、若手の声も同じ重みで扱う姿勢を院長自身が示すことが、力関係の偏りを是正する鍵になります。
Q4. 離職の予兆にはどんなサインがありますか。
発言量の減少、雑談への不参加、遅刻・欠勤の増加、業務改善提案の減少などが代表的なサインです。普段との「違い」に気づけるよう、日頃からスタッフの様子を観察しておくことが大切です。
Q5. 面談を実施しても本音を話してもらえません。なぜでしょうか。
院長が直接話を聞く形式では、評価への影響を懸念して本音を隠すスタッフは少なくありません。第三者が面談に入ることで、本音を引き出しやすくなるケースもあります。
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