「また辞めた」を繰り返す歯科医院に、共通していること
求人を出しても採用してもすぐに辞めてしまう。特定のスタッフが辞めると、まるでドミノ倒しのように次々と退職者が続く。そんな経験をされた院長先生は、決して少なくありません。ようやく仕事に慣れてきたと思った頃に「辞めます」と切り出され、また一から採用と教育をやり直す――そのループに疲れを感じている方も多いのではないでしょうか。
特に承継したばかりの医院では、「前の院長の時はこんなに辞めなかったのに」という比較の視線がスタッフからもご自身の中からも生まれやすく、辞められるたびに経営者としての自信を削られてしまいます。
スタッフが辞める歯科医院には、いくつかの共通した「特徴」があります。それは決して院長の人間性の問題ではなく、多くの場合、仕組みで変えられる部分です。
私自身も、スタッフの退職が続いた歯科医院のコーチングに関わらせていただく中で、「なぜうちばかり辞めるのか分からない」と悩む院長先生に何人もお会いしてきました。ですがお話を丁寧に伺っていくと、辞めていくスタッフの多くが同じようなサインを発していたことに気づきます。求人広告費をかけて採用しても、数ヶ月から半年で辞められてしまえば、採用コストも教育にかけた時間も水の泡になってしまいます。それだけでなく、残ったスタッフの負担が増え、さらなる離職を招くという悪循環に陥ってしまう医院も少なくありません。人手が足りない状態が続けば、診療の質やスケジュールにも影響が及び、患者さんへのサービスにまで波及してしまうこともあります。この記事では、スタッフが辞める歯科医院に共通する特徴と、その根本原因、そして今日からできる具体的な対策をお伝えします。
「辞める」は突然ではなく、積み重なった「サイン」の結果
スタッフの退職は、多くの場合、突然の出来事のように感じられます。しかし実際には、退職の意思を伝える何ヶ月も前から、小さな違和感やサインが積み重なっていることがほとんどです。
表情が硬くなる、朝礼での発言が減る、雑談が減る――こうした変化に気づけないまま日々の診療をこなしていると、ある日突然「辞めます」という言葉だけが届き、院長先生としては「何も聞いていなかった」と感じてしまいます。
「気づかなかった」のではなく、「気づける仕組みがなかった」だけです。
この違いに気づくことが、スタッフが辞める医院から、辞めない医院へと変わる第一歩になります。実際に、退職者が出た後にスタッフ同士で話を聞いてみると、「実は前から辞めたいと言っていた」「様子がおかしいのは気づいていた」という声が出てくることは珍しくありません。つまり、周囲のスタッフはサインに気づいていたのに、院長だけがそれを知らなかった、というケースが多いのです。これは決して院長先生の観察力が足りないからではなく、日々の診療に追われる中で、スタッフ一人ひとりとじっくり向き合う時間そのものが物理的に確保しづらいという構造的な問題でもあります。次の章では、スタッフが辞める歯科医院に共通する特徴を3つに整理してご紹介します。
スタッフが辞める歯科医院に共通する3つの特徴
特徴1:院長やリーダーに本音を言えない空気がある
不満や違和感を口にしても「聞いてもらえない」「余計なことを言うと評価が下がる」と感じている職場では、スタッフは本音を飲み込んだまま働き続け、限界を迎えたときに突然辞めるという選択をとります。歯科医院の心理的安全性の作り方|院長の実践5ステップでも触れているように、本音を言える空気があるかどうかは、スタッフの定着率に直結する重要な要素です。
特徴2:評価や給与の基準が不透明で、頑張りが報われないと感じている
何をどう頑張れば評価され、給与に反映されるのかが分からない職場では、スタッフのモチベーションは徐々に下がっていきます。特に真面目に働いているスタッフほど、「これだけ頑張っているのに報われない」という不公平感を強く抱え、静かに転職活動を始めてしまう傾向があります。
特徴3:新人や中途スタッフの教育が属人化し、孤立しやすい
教える人によって内容がバラバラで、しかも「見て覚えて」という文化が根強い医院では、新しく入ったスタッフが孤立感を抱えやすくなります。誰にも質問できない、失敗しても誰もフォローしてくれないという環境は、入社後わずか数ヶ月での早期離職につながる大きな要因です。特に中途採用のスタッフは、前職でのやり方と現在の医院のやり方の違いに戸惑いながらも、「今さら聞きにくい」と感じて一人で抱え込んでしまう傾向があります。周囲が忙しそうにしているほど、質問するタイミングを失い、孤立感が深まっていきます。
辞めない組織をつくる、コーチング型の4つのアプローチ
「辞められてから対処する」のではなく、「辞めたくなる前に気づく」仕組みをつくることが、最も効果的な対策です。
ここまでの特徴と原因を踏まえ、スタッフが辞めない組織をつくるための具体的なアプローチを4つご紹介します。
アプローチ1:小さなサインに気づく「観察の習慣」を持つ
朝の挨拶時の表情、雑談の量、休憩室での過ごし方など、日常の些細な変化に意識的に目を向けることが、早期発見の第一歩になります。忙しい診療の合間でも、1日1回、スタッフ一人ひとりの様子を意識して見る時間を持つだけで、変化への感度は大きく変わります。特別なスキルは必要なく、「昨日と何か違うか」という視点を持つだけで十分です。この小さな積み重ねが、退職の意思を伝えられる前に声をかけられるかどうかの分かれ目になります。
アプローチ2:定例の1on1で「言える場」を制度化する
本音を言える空気は、待っているだけでは生まれません。歯科医院の1on1ミーティング導入方法【7ステップ】で紹介しているように、定期的に1対1で話す場を制度として設けることで、スタッフは「話してもいい」という安心感を持てるようになります。最初のうちは当たり障りのない会話しか出てこないかもしれませんが、継続することで少しずつ本音が語られるようになっていきます。焦らず、まずは「話す場がある」こと自体を根づかせることを意識してください。
アプローチ3:評価基準を言語化し、給与とのつながりを明確にする
「何を頑張れば評価されるのか」を具体的な行動レベルで言語化し、スタッフと共有することが重要です。歯科医院の人事評価制度の作り方|二代目院長の5ステップでも解説している通り、評価の透明性は、スタッフの納得感と定着率を大きく左右します。
アプローチ4:コーチング型のフィードバックで、教える側による差をなくす
新人教育においては、教える側の伝え方が属人化しないよう、事実を観察し、承認し、本人に考えさせるというコーチング型の関わり方を、教育を担当するスタッフ全員で共有することが効果的です。誰が教えても一定の質を保てる仕組みがあることで、新人スタッフの孤立感を防ぐことができます。院長先生自身がこうした関わり方を体現することで、リーダーやチーフスタッフにもその姿勢が自然と伝わり、教育の文化そのものが少しずつ変わっていきます。
今週から始められる、具体的なアクション3つ
理屈だけでなく、実際に今週から動き出せる具体的なアクションをご紹介します。
アクション1:スタッフ一人ひとりと5分だけ立ち話をする
改まった面談でなくても構いません。診療の合間に「最近どう?」と5分だけ声をかける習慣を持つことで、小さな変化に気づくきっかけが生まれます。
アクション2:次回の1on1で「評価の基準」について一緒に話す
すでに1on1を実施している場合は、次回のテーマとして「何を頑張れば評価されるか」を一緒に確認する時間をつくってみてください。基準が言葉になるだけで、スタッフの受け止め方は大きく変わります。
アクション3:新人担当者同士で「教え方」をすり合わせる時間を持つ
複数のスタッフが新人教育に関わっている場合は、月1回でよいので、教え方の認識をすり合わせる時間を設けてください。バラつきに気づくだけでも、大きな改善の一歩になります。教える立場のスタッフ自身も、自分のやり方に自信が持てず戸惑っているケースがあるため、この時間は新人だけでなく、教える側の安心にもつながります。
まとめ|辞める歯科医院から、辞めたいと思わせない歯科医院へ
スタッフが辞める歯科医院には、本音を言えない空気、不透明な評価基準、属人化した教育という3つの共通した特徴があります。しかしこれらは、性格や相性の問題ではなく、日々の関わり方や仕組みを整えることで、確実に変えていける部分です。一つずつ順番に手をつけていけば、決して特別なことをする必要はありません。
辞められる痛みを繰り返さないために、まずは「気づく仕組み」から始めてみてください。
小さな一歩の積み重ねが、半年後、1年後の医院の空気を大きく変えていきます。
とはいえ、日々の診療をこなしながら一人でこうした仕組みを整えていくのは簡単なことではありません。院長先生がすべての変化に一人で気づき、一人で対応しようとすると、いずれ限界がきてしまいます。何から手をつければいいか迷ったときは、外部の視点を借りることも一つの方法です。第三者が関わることで、院長先生自身も気づいていなかった組織の癖や、スタッフが本音を言いやすくなる関わり方のヒントが見えてくることがあります。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
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よくある質問
Q1. スタッフが辞めると伝えてきてから、引き止めることはできますか?
一度退職の意思が固まった段階での引き止めは難しいケースが多いですが、まずは本人の話をしっかり聞く姿勢が大切です。条件面だけを引き止めの材料にすると、根本的な不満が解消されず、結局しばらくしてから再び退職の話が出てくることもあります。ただし、引き止め自体よりも、そもそも辞めたくなる前にサインに気づける仕組みをつくることの方が、長期的には効果的です。
Q2. 忙しくてスタッフ一人ひとりを観察する時間が取れません。どうすればいいですか?
改まった時間を確保する必要はなく、診療の合間の挨拶や休憩室での立ち話の中で意識的に様子を見るだけでも十分です。まずは1日数分から、意識を向けることから始めてみてください。
Q3. 評価基準を言語化しようとしても、何を基準にすればいいか分かりません。
技術面だけでなく、接遇や周囲への協力姿勢など、医院として大切にしたい行動を3〜5項目程度に絞って言葉にすることから始めるとよいでしょう。完璧な制度を最初から作る必要はありません。まずは仮のものでも構わないので言葉にしてスタッフに共有し、実際に運用しながら少しずつ調整していく方が、現実的かつ現場に合ったものになっていきます。
Q4. 退職の連鎖が起きてしまいました。今からでも止められますか?
連鎖が起きている場合、残っているスタッフの不安が高まっている可能性があります。何も説明がないまま日々が過ぎていくと、不安はさらに膨らみ、次の退職者を生み出してしまいます。まずは残っているスタッフに対して、現状と今後の方針を誠実に伝えることが、これ以上の連鎖を防ぐ第一歩になります。
Q5. スタッフが辞める原因が、自分自身にあるのではと感じてしまいます。
そのように感じてしまう院長先生は少なくありませんが、原因を一人で背負い込む必要はありません。承継したばかりの医院では特に、前院長との比較や、まだ築けていない信頼関係への不安から、自分を責めてしまいがちです。しかし仕組みの問題として捉え直し、一つずつ整えていく姿勢自体が、すでに大きな改善の一歩です。
一人で抱え込まず、まずはお話を聞かせてください


