退職代行を使われた院長へ|歯科医院の初動と再発防止

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ある日突然届いた「退職代行から連絡」院長の衝撃

朝、クリニックに一本の電話が入ります。「〇〇様の代理人です。本日付をもって退職いたしますので、ご本人への連絡はお控えください」——聞き慣れない事務的な声に、頭が真っ白になった院長は少なくありません。

昨日まで普通に診療補助をしてくれていたスタッフです。何かサインはあったはずなのに、気づけなかった。悔しさと同時に、「なぜ直接言ってくれなかったのか」という怒りにも似た感情が湧いてくる。そして次の瞬間、頭をよぎるのは今日の診療をどう回すか、他のスタッフにどう説明するか、という現実的な問題です。

突然の退職代行は、あなたの経営者としての力量が否定されたわけではありません。多くの2代目・3代目院長が、承継から数年のうちに一度はこの経験をしています。退職代行サービスを提供する業者側の統計でも、利用者の年代は20代が突出して多く、医療・介護系の職場は依頼が多い業種の一つとして挙げられています。歯科医院は少人数で人間関係が密になりやすく、かつ女性スタッフの比率が高いため、退職代行と相性が悪い職場環境になりやすいのです。

この記事では、実際に退職代行の連絡を受けたときに院長がまず何をすべきか、そしてなぜ歯科医院でこうしたことが起きやすいのか、さらに二度と繰り返さないためにどう人間関係を立て直していくかを、順を追ってお伝えします。

なぜ歯科医院で退職代行の利用が増えているのか

退職代行サービスは、もともとブラック企業からの「辞めさせてもらえない」問題を解決する手段として広がりました。しかし近年は、必ずしも劣悪な職場でなくても、「言いにくいから」という理由だけで利用されるケースが急増しています。歯科衛生士・歯科助手といった専門職の採用市場でも、退職代行を通じた離職はもはや珍しい話ではなくなりました。

歯科業界特有の背景として、以下の3点が指摘されています。

第一に、歯科医院は平均して5〜10人程度のスタッフで運営される小規模組織が多く、院長との距離が物理的にも心理的にも近い分、一度気まずくなると「顔を合わせて話す」こと自体のハードルが極端に上がります。第二に、女性スタッフの割合が高く、対人関係のストレスが離職理由の上位を占め続けています。第三に、承継直後の医院では「前院長時代のやり方」と「新院長のやり方」の間で板挟みになるスタッフが多く、不満が言語化されないまま蓄積しやすい構造があります。

私自身、コーチングの現場で数多くの歯科医院の院長先生とお話をしてきましたが、「辞める前に一言相談してほしかった」と嘆く院長ほど、実は日頃スタッフから話しかけられていないという共通点があります。これは決して院長が悪いという意味ではありません。むしろ真面目に診療と経営に向き合っているからこそ、スタッフとの対話に時間を割けていない、という構造的な問題なのです。

退職代行を「モラルの低下」や「今どきの若者の甘え」と捉えてしまうと、根本原因を見誤ります。退職代行は結果であって、原因ではありません。その手前に何があったのかを見つめ直すことが、次の一手につながります。

歯科医院スタッフが退職代行を選ぶ3つの本当の理由

退職代行を使うスタッフの心理を分解すると、歯科医院特有の事情が見えてきます。ここでは代表的な3つの理由を掘り下げます。

理由1:本音を言える場がそもそもなかった

多くの歯科医院では、面談といっても年に一度の形式的な評価面談があるだけで、日常的に「今どう感じているか」を話す機会がありません。不満は小さな違和感のうちは我慢できても、蓄積すると「もう話しても無駄だ」という諦めに変わります。この段階まで来ると、退職の意思は固まっており、代行業者に依頼するのは単なる事務手続きになってしまいます。

理由2:少人数職場特有の「逃げ場のなさ」

一般企業であれば部署異動や上司の交代で人間関係をリセットできますが、歯科医院ではそれができません。院長と合わない、先輩衛生士と合わない、となれば選択肢は「我慢するか辞めるか」の二択になりがちです。しかも毎日同じ診療室で顔を合わせるため、一度気まずくなった関係を修復する機会自体が失われやすいのです。

理由3:承継期特有の「試されている」空気

継承2〜3年目の院長は、スタッフから常に「前院長と比較」される立場に置かれます。悪気なく発せられる「前の先生はこうだった」という一言の積み重ねが、院長側にもスタッフ側にも見えない緊張を生みます。スタッフからすれば「新しい院長についていっていいのか」を無意識に見極めている段階であり、そこで信頼関係が築けないと、静かに離れていってしまいます。

辞めたスタッフが最後まで何も言わなかったのは、あなたを嫌っていたからではなく、あなたに期待することをやめてしまっていたからかもしれません。この視点を持てるかどうかが、次の対応の質を大きく左右します。

実際、退職前の面談やアンケートで「不満を伝える機会があったら利用したか」と尋ねると、多くのスタッフが「機会があれば伝えたかった」と回答する傾向が、離職動向に関する各種調査で繰り返し指摘されています。つまり、本音を話す「場」さえあれば、退職代行という選択に至る前に、対話による解決の余地が十分にあったケースは少なくないのです。

退職代行の連絡が来たときに院長が今すぐすべき初動対応

感情が揺さぶられる出来事だからこそ、初動を誤ると事態を悪化させます。ここでは実務面の対応を整理します。

受任通知を受けたらまずやること

退職代行業者や弁護士から連絡が来たら、まずは相手が「弁護士」か「民間の退職代行業者」かを確認してください。弁護士であれば有給消化の交渉や退職日の調整など法律行為の代理が可能ですが、民間業者は本来「本人の意思を伝える使者」としての役割に限られます。いずれにせよ、本人への直接連絡は控え、書面またはメールで退職日・貸与物の返却方法・離職票の送付先などを淡々と確認していくのが基本です。感情的な反応をぶつけても、法的にも実務的にも得るものはありません。

やってはいけないNG対応

「本人と直接話をさせろ」と業者に詰め寄る、SNSで本人を名指しして不満を書く、給与や有給消化を意図的に遅らせる——これらはすべて避けるべき対応です。特に有給休暇の取得や退職金の支払いを渋る行為は、労働基準監督署への相談や損害賠償請求のリスクにつながりかねません。「辞められた腹いせ」に見える行動は、残ったスタッフからの信頼も一気に失います。淡々と、しかし丁寧に手続きを進めることが、結果的に院長を守ります。

他のスタッフへの説明と動揺の防止

退職代行での離職が起きると、残ったスタッフの間に動揺が広がります。「次は自分も」と連鎖離職の引き金になることも珍しくありません。事実関係を誇張も隠蔽もせず、「〇〇さんは一身上の都合で退職しました。皆さんには変わらず頑張ってほしい」と簡潔に伝えたうえで、個別に不安を聞く時間を設けることが重要です。私が関わった医院では、退職代行のケース発生後すぐに院長が全スタッフと5分ずつでも個別に話す時間を作ったことで、連鎖離職を防げた例がありました。沈黙は不安を増幅させますが、誠実な説明は信頼を再構築する第一歩になります。

二度と繰り返さないための再発防止策

初動対応が落ち着いたら、次に取り組むべきは「なぜ相談してもらえなかったのか」という根本原因への対策です。

定期面談の仕組み化

年1回の評価面談だけでは、日々の小さな違和感を拾えません。月1回、15分程度の「業務の話をしない雑談面談」を仕組みとして導入することで、スタッフが不満を口にする前段階の「モヤモヤ」を早期にキャッチできます。重要なのは頻度と継続性であり、思いついたときだけの面談では効果が薄いという点です。

院長自身のコミュニケーションの見直し

私自身も承継期のクリニックの現場で、スタッフとの距離の取り方に悩んだ経験があります。「経営者として厳しくあるべきだ」という思い込みが、知らず知らずのうちにスタッフとの間に壁を作っていました。指示や指導だけでなく、日頃から「ありがとう」「助かった」という言葉を意識的に増やすこと、そして忙しいときこそ一瞬立ち止まって相手の表情を見ることが、信頼関係の土台になります。厚生労働省の職場環境改善に関する調査でも、上司からの日常的な声かけの有無が離職意向に大きく影響することが繰り返し示されています。

第三者を入れた面談代行という選択肢

院長本人が面談をすると、スタッフはどうしても評価を気にして本音を話しにくくなります。「院長には言えないけれど、第三者になら話せる」という本音は、想像以上に多いのです。外部のコーチングパートナーやスタッフ面談代行サービスを活用することで、院長とスタッフの間に立って本音を吸い上げ、経営に活かせる形にフィードバックする仕組みを作れます。これは院長の負担を減らすだけでなく、スタッフにとっても「話を聞いてもらえる場がある」という安心材料になり、退職代行という最終手段を選ぶ前に相談してもらえる関係性づくりにつながります。

ある院長が経験した「その後」の変化

私がコーチングでご一緒したある2代目院長は、承継3年目に歯科衛生士から退職代行の連絡を受けました。最初はショックで診療にも身が入らなかったそうですが、その後の対応を一つひとつ振り返る中で、「実は半年ほど前から、そのスタッフが会議で発言しなくなっていた」ことに気づかれました。

その院長は、初動対応を落ち着いて終えたあと、残ったスタッフ一人ひとりと15分ずつの面談を実施しました。最初は「特にありません」という返事ばかりだったそうですが、3回目、4回目と回を重ねるうちに、少しずつ具体的な要望や不安が出るようになったといいます。半年後には、スタッフの一人が「最近、意見を聞いてもらえる雰囲気になった」と話してくれたそうです。変化のきっかけは、辞められたことそのものではなく、辞められたあとにどう向き合うかにありました。

このように、退職代行という出来事は確かに辛い経験ですが、そこで立ち止まって振り返るかどうかで、その後の組織のあり方は大きく変わっていきます。同じ経験を繰り返さないためにできることは、決して特別なことではなく、日々の小さな積み重ねなのです。

まとめ|退職代行は終わりではなく、立て直しのきっかけにできる

退職代行を使われるという経験は、院長にとって大きなショックです。しかしそれは、あなたの経営者としての価値を否定するものではなく、これまで見過ごしていた職場のコミュニケーションの課題に気づかせてくれる出来事でもあります。

初動では感情的にならず、法的に適切な手続きを淡々と進めること。そして中長期では、日常的な対話の機会を仕組みとして作り、必要であれば第三者の力を借りること。この両輪を回していくことで、同じことを繰り返さない職場に少しずつ変わっていきます。

継承期の院長が一人で抱え込む必要はありません。スタッフとの関係に悩んだとき、外部の視点を入れることは決して弱さではなく、経営判断のひとつです。同じ悩みを乗り越えてきた院長は、あなたが思っているよりもずっと多くいます。一人で抱え込まず、まずは話を聞いてもらうところから始めてみませんか。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。

よくある質問

Q1. 退職代行から連絡が来たら、本人に直接電話してもいいですか?

A. 原則控えましょう。本人が直接連絡を拒否している意思表示であり、トラブルの火種になります。

Q2. 退職代行を使われた場合、即日退職は認めなければいけませんか?

A. 民法上、雇用期間の定めがない場合は申し出から2週間で退職が成立します。

Q3. 退職代行業者からの請求に応じないとどうなりますか?

A. 労基署への相談や訴訟に発展する可能性があり、対応拒否はリスクが高いです。

Q4. スタッフが退職代行を使う前兆はありますか?

A. 急な口数の減少や有給消化の相談増加など、小さな変化が前兆になりえます。

Q5. 退職代行を防ぐために院長がすぐできることは何ですか?

A. 月1回の短い雑談面談を仕組み化し、日常的な声かけを増やすことです。

この記事を書いた人

梅田 亮のアバター 梅田 亮 代表取締役

株式会社PlumChan 代表取締役。医科・歯科専門でコーチング技術を用いたコミュニケーション研修やスタッフ面談代行を行い、心理的安全性の高い職場づくりを行っています。

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