歯科医院のお局対処法|院長の向き合い方

歯科医院のお局スタッフとは、院内での在籍年数と前院長との関係性を背景に、新しい院長よりも強い発言力を持ち、他スタッフへの影響力を使って院長の方針に反発したり、前院長と比較したりする特定の古参スタッフのことであり、対処法は「感情的な対立を避けながら、役割と評価基準を再定義し、必要に応じて第三者を介在させること」です。

目次

なぜ「お局」ひとりの存在が、歯科医院経営の重荷になるのか

一人の言動が院内全体の空気を支配し、院長の指示よりも「お局の顔色」が優先される力関係が生まれてしまうためです。

前院長から医院を継いだばかりの院長にとって、最も消耗するのは「正面から反抗される」ことよりも、「表向きは従っているのに、実際には無視される」感覚だと思います。診療方針を伝えても、なぜかその通りに動かれない。他のスタッフに聞くと、裏で「前の院長ならこうしなかった」という声が漏れ聞こえてくる。

私はこれまで、歯科医院の院長先生から数えきれないほどの組織相談を受けてきましたが、そのほとんどに共通していたのは、特定のベテランスタッフ一人の存在が、院内の意思決定のスピードと質を大きく左右しているという事実でした。院長が新しい取り組みを提案しても、そのスタッフが表情を曇らせるだけで、他のスタッフが萎縮し、結果として何も変わらない。これは個人の資質の問題ではなく、組織の中に「院長よりも強い権威」が存在してしまっているという構造の問題です。

この構造を放置すると、院長自身が「自分の医院なのに、自分の医院らしく振る舞えない」という深い孤独感を抱えることになります。

歯科医院の「お局スタッフ」とは何者か

「比較型」「情報操作型」「依存型」の3タイプに分かれることが多く、いずれも前院長時代に築いた発言力を武器にしている点が共通しています。

お局スタッフの発言力の源泉は、多くの場合「前院長からの信頼」と「在籍年数の長さ」です。開院当初から医院を支えてきた自負があり、新院長のやり方を「まだ実績のない若造のやり方」として無意識に格下げしてしまう心理が働きます。

代表的な3タイプを整理すると、次のようになります。

タイプ特徴的な言動院内への影響
比較型「前の院長はこうだった」を頻繁に口にする院長の自信を削ぎ、新方針への抵抗感を生む
情報操作型院長の発言を都合よく他スタッフに伝える誤解や不信感が院内に広がる
依存型業務が属人化し「この人がいないと回らない」状態強い態度に出られても注意しづらくなる

ある地方都市の歯科医院では、開業から18年勤める歯科衛生士が「情報操作型」に近く、院長が新しい予約システムを導入しようとした際、他のスタッフに「今のままで問題ないのに、また変な口出しをされている」と話していたことが後から判明しました。院長本人は良かれと思って提案しただけなのに、伝わる頃には「口出し」という否定的な言葉に変換されていたのです。悪意がなくても、影響力の強さそのものが組織を歪めることがあるという点は、覚えておいていただきたい事実です。

さらに見過ごされがちなのが、若手スタッフへの二次的な影響です。お局スタッフの顔色をうかがう空気が院内に広がると、入職して間もないスタッフほど「余計なことをすると睨まれるのでは」と萎縮し、質問や提案を控えるようになります。ある調査会社が歯科医療従事者を対象に行ったアンケートでも、職場の人間関係を退職理由の上位に挙げる回答が継続的に見られており、特定の一人との関係が原因で医院全体の雰囲気が硬直するケースは、決して珍しいことではありません。院長が向き合うべきは「お局スタッフ本人」だけでなく、「その人の存在によって萎縮している周囲のスタッフ」でもあるのです。

お局スタッフが生まれる3つの原因

継承時の力関係の引き継ぎ不足、院長側の遠慮のしすぎ、評価基準が明確でない組織構造という3つの原因が重なって生じます。

原因の一つ目は、院長交代のタイミングで「権限の引き継ぎ」が曖昧なまま行われることです。診療の引き継ぎは丁寧に行われても、「誰が最終的な意思決定者か」という組織上の引き継ぎは、ほとんどの医院でなされていません。結果として、スタッフの中には「実質的なリーダーは今も前院長派の自分たち」という認識が残ります。

二つ目は、院長自身が「辞められたら困る」という恐れから、必要な指摘を先送りにしてしまうことです。ベテランスタッフほど臨床スキルが高く、患者からの信頼も厚いため、院長は強く出られません。この遠慮が積み重なると、スタッフ側は「何を言っても許される」という誤った学習をしてしまいます。

三つ目は、評価やルールが属人的な「空気」で決まっている組織構造です。誰が何を基準に評価されているかが不明確な医院では、声の大きい人・在籍年数の長い人の意見が、そのまま医院の方針であるかのように扱われがちです。

私自身、以前組織の中で年上のメンバーとの関係に悩んだ経験があります。相手に悪気がないと分かっていても、発言のたびに場の空気が変わることに疲弊しました。そのとき助けになったのは「相手を変えよう」とすることではなく、「関係性の構造そのものを見直す」という視点でした。歯科医院の院長先生方にも、同じ視点の転換をお伝えしています。

やってはいけない対応と、効果的な対処法

正面から論破したり見て見ぬふりをしたりするのではなく、役割を再定義したうえで、1対1の対話と第三者の介在を組み合わせることが効果的です。

まず避けていただきたいNG対応が二つあります。一つは、スタッフミーティングなど人前で正面から指摘し、プライドを傷つけて論破しようとすることです。これは一時的に沈黙させられても、裏での反発を強め、他スタッフの前で院長への不信を煽る結果になりがちです。もう一つは、逆に何も言わず見て見ぬふりを続けることです。沈黙は「容認」として受け取られ、状況を悪化させるだけです。

効果的なのは、次の二段階のアプローチです。第一に、1対1の面談の場で「役割の再定義」を行うこと。「あなたのこれまでの経験を、後輩育成という形で医院に活かしてほしい」というように、影響力そのものを否定せず、望ましい方向に使ってもらう提案をします。第二に、院長自身が直接言いにくい内容については、外部のコーチや面談代行サービスなど第三者を介することです。

実際にご相談いただいたある医院では、院長が何度伝えても変わらなかった態度が、外部の第三者面談を一度挟んだだけで、驚くほど落ち着いたケースがありました。「院長には強く出られても、外部の専門家には本音を話さざるを得ない」という心理が働いたためです。身内同士では固定化した力関係が、第三者を挟むことで一度リセットされることがあります。

また、第三者を介する際に大切なのは「密告のための面談」にしないことです。誰が何を話したかが本人にそのまま伝わってしまうと、かえって医院内の疑心暗鬼を強めてしまいます。院長にフィードバックする際は個人が特定されない形に整理し、あくまで「医院全体をより良くするための情報」として扱う姿勢を、院長・スタッフ双方に事前に伝えておくことが、信頼関係を保ちながら進めるための重要なポイントです。

今日からできる具体的アクション

事実の記録、小さな成功体験の提供、そして「共存できるかどうか」の見極めラインの設定という3つのアクションです。

一つ目は、感情ではなく事実を記録することです。「いつ、誰に、何を言ったか」を簡潔にメモしておくだけで、後々の面談や判断の際に、客観的な根拠として使えます。二つ目は、小さな成功体験を意図的に渡すことです。新しい取り組みの一部を任せ、うまくいった際にきちんと言葉で承認する。これにより「自分は排除されるのではなく、必要とされている」という安心感が生まれ、態度が軟化することがあります。三つ目は、「どこまでなら共存でき、どこからは決別を検討するか」という自分なりの見極めラインを、あらかじめ決めておくことです。

ある院長は、「患者の前で医院の悪口を言わない」「他スタッフへの指示系統を乱さない」という2点だけを最低ラインとして自分の中で明文化しました。基準が明確になったことで、感情的に振り回されることが減り、必要な場面では毅然と伝えられるようになったといいます。基準を持つことは、冷たさではなく、公平さの証です。

それでも変わらない場合の判断基準

「医院の成長にとって共存可能か」を基準に判断し、労務の専門家や外部コーチに相談するタイミングを見極める必要があります。

対話や役割の再定義を尽くしても改善が見られない場合、次に考えるべきは「このスタッフと今後も一緒に医院を成長させていけるか」という経営判断です。感情的な好き嫌いではなく、患者満足度・他スタッフの離職率・院内の意思決定スピードといった客観的な指標に、悪影響が出ているかどうかで判断することが大切です。

退職勧奨や配置転換などの判断が視野に入る場合は、自己判断で進めず、社会保険労務士や第三者のコーチングサービスに早めに相談することをおすすめします。特に歯科医院は院長とスタッフの距離が近く、感情的な対立がそのままトラブルに発展しやすい業界です。専門家を交えることで、院長の負担を減らしながら、法的にも適切な進め方が可能になります。

実際に、対話を重ねても関係性が改善しなかったある医院では、院長が一人で抱え込まず早い段階で外部の第三者に相談したことで、退職に至るまでの過程を大きなトラブルなく進めることができました。逆に、判断を先延ばしにしたまま我慢を続けた医院では、院長自身が体調を崩すまで追い込まれてしまったケースもあります。「いつまでに、どうなっていなければ動く」という期限を自分の中に持っておくことが、心身をすり減らさないための一つの目安になります。

まとめ

お局スタッフの問題は、個人の性格の問題ではなく、継承時に生まれた力関係の歪みという組織構造の問題です。正面から戦うのでも、我慢し続けるのでもなく、役割を再定義し、必要に応じて第三者を介在させることで、状況は着実に変えていくことができます。一人で抱え込まず、まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。

よくある質問

Q1. お局スタッフとは、具体的にどんな人を指しますか。

A. 在籍年数が長く前院長との関係が深いことを背景に、新院長よりも強い発言力を持ち、他スタッフへも影響を及ぼすベテランスタッフを指します。

Q2. お局スタッフを辞めさせることはできますか。

A. 一方的な解雇はリスクが高いため、まずは役割の再定義や面談で改善を試み、それでも難しい場合は専門家に相談しながら退職勧奨などを検討します。

Q3. 面談しても態度が変わらないのはなぜですか。

A. 院長本人との対話だけでは固定化した力関係が変わりにくいためです。第三者を介した面談を挟むことで状況が動くことがあります。

Q4. 他のスタッフまでお局に同調してしまう場合はどうすればいいですか。

A. 院内の評価基準やルールを明文化し、特定の個人の空気ではなく、医院全体の方針で動く仕組みを作ることが有効です。

Q5. 専門家に相談すべきタイミングの見極め方を教えてください。

A. 対話や役割再定義を試みても改善が見られず、患者満足度やスタッフの離職に悪影響が出始めた時点が相談の目安です。

この記事を書いた人

梅田 亮のアバター 梅田 亮 代表取締役

株式会社PlumChan 代表取締役。医科・歯科専門でコーチング技術を用いたコミュニケーション研修やスタッフ面談代行を行い、心理的安全性の高い職場づくりを行っています。

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