「前院長と比べられてつらい」その孤独、あなただけではありません
継承して2〜3年目。日々の診療をこなしながら、ふと気づくとスタッフの視線が「前の院長先生の頃は違った」と語っているように感じる。そんな瞬間はありませんか。朝礼で発言しても反応が薄い、雑談の輪に自分だけ入れない、ベテラン衛生士さんの顔色をうかがってしまう——院長という立場でありながら、まるで新入りのような孤独を感じている先生は少なくありません。
私自身も、経営者やクリニックの後継者の方々のコーチングをお引き受けする中で、この「前任者との比較」に苦しむ声を数えきれないほど聞いてきました。ある歯科医院の3代目院長は、面談の場で「スタッフから信頼されているのは、私ではなく祖父の代からいる看護助手さんの方だと思う」と、うつむきながら話してくれました。技術も知識も引き継いだはずなのに、なぜかスタッフとの間には見えない壁がある。その正体がわからないまま日々が過ぎていくのは、想像以上につらいものです。
大切なのは、これがあなた個人の資質の問題ではなく、「継承」という立場そのものが構造的に抱える課題であるという事実です。前院長は何年、何十年という時間をかけて信頼関係を築いてきました。それを2〜3年で同じレベルに到達させようとすること自体、実は無理のある比較なのです。まずはその前提を知ることが、スタッフ面談という具体的な行動に踏み出す最初の一歩になります。
なぜ歯科医院のスタッフ面談は空回りしてしまうのか
「面談をやってみたけれど、当たり障りのない会話で終わってしまった」「聞きたいことを聞けないまま時間切れになった」——こうした経験をお持ちの院長先生は非常に多くいらっしゃいます。スタッフ面談がうまくいかない最大の理由は、実は「面談のやり方」そのものを教わる機会が、歯科医院という業界にほとんど存在しないからです。
歯学部では治療技術を学びますが、組織マネジメントや1対1の対話術を体系的に学ぶカリキュラムは限られています。多くの院長先生は、経営者になった瞬間から「見よう見まねで」スタッフとの面談に臨んでいるのが実情です。目的が曖昧なまま「最近どう?」と聞くだけの雑談になってしまったり、逆に業務改善の指示だけで終わる一方通行の場になってしまったりするのは、決して先生方の能力不足ではありません。
ここで押さえておきたいのは、面談は「問いただす場」ではなく「関係を耕す場」だという視点の転換です。面談の目的があいまいなままだと、スタッフ側も「呼び出された=叱られる」と身構えてしまい、本音を話すどころか防御的な態度になってしまいます。実際に、歯科衛生士を対象とした調査では、離職理由の上位に育児・出産に次いで「人間関係」が挙げられており、日頃のコミュニケーション不足が離職の引き金になっていることがうかがえます。面談という仕組みを正しく設計することは、単なる対話の場を超えて、スタッフの定着率そのものに直結する経営課題なのです。
スタッフとの溝が生まれる3つの原因
面談がうまくいかない背景には、多くの場合、共通する3つの原因が潜んでいます。ひとつずつ整理してみましょう。
原因1:院長自身が「弱み」を見せられない
継承したばかりの院長ほど、「頼りない」と思われたくない一心で、完璧な院長像を演じてしまいがちです。しかし、スタッフは院長の強さよりも、正直さや誠実さを見ています。私自身、独立当初は「弱みを見せたら舐められる」と思い込んでいましたが、実際にはその逆でした。自分がわからないことを「わからない」と言えるようになってから、周囲との距離が縮まっていったのです。
原因2:前院長のやり方との「引き算」で見られている
スタッフは意図せずとも、無意識に新院長を前院長と比較します。これ自体は自然な心理現象であり、避けることはできません。問題は、院長側がその比較を恐れるあまり、自分の方針を打ち出せずに前院長のやり方を踏襲し続けてしまうことです。ある2代目院長は、内心「もっとデジタル化を進めたい」と思いながらも、古参スタッフの反発を恐れて3年間言い出せずにいました。比較されることを恐れるのではなく、比較されることを前提に自分の言葉で語る覚悟こそが、この壁を越える鍵になります。
原因3:面談の「場」が制度として設計されていない
思いついたときに、忙しい診療の合間を縫って立ち話のように行う面談では、スタッフは本音を話せません。頻度も時間も場所も決まっていない面談は、スタッフから見れば「いつ何を聞かれるかわからない不安な時間」になってしまいます。歯科医院向けの組織づくりを解説する記事の中でも、スタッフミーティングは月1回程度、時間を決めて実施し、院長が話す時間は全体の3割程度に抑えることが推奨されています。面談も同様に、感覚ではなく「制度」として設計する必要があるのです。
効果が出るスタッフ面談のやり方【実践5ステップ】
それでは、実際にどのようなやり方で面談を行えばよいのでしょうか。ここからは、明日からでも実践できる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:目的を「評価」ではなく「支援」に置く
面談の冒頭で「今日は評価の場ではなく、あなたが働きやすくなるために話す時間です」とはっきり伝えてください。この一言があるだけで、スタッフの表情が明らかに変わります。面談の入り口をどう設計するかで、その後の30分の質はほぼ決まってしまうと言っても過言ではありません。
ステップ2:頻度と時間をあらかじめ固定する
理想は1人あたり月1回、15〜30分程度です。人数が多く毎月全員は難しい場合は、2〜3ヶ月に1回でも構いません。大切なのは「不定期」ではなく「定期」にすることです。カレンダーに先に予定を入れてしまい、スタッフにも事前に周知しておくと、身構えずに臨んでもらいやすくなります。
ステップ3:話す順番を「業務→気持ち→今後」の流れにする
いきなり「悩みはある?」と聞かれても答えにくいものです。まずは直近の業務で困っていることや患者対応で気づいたことなど、答えやすい具体的な話題から入りましょう。そこから徐々に「最近どんな気持ちで働いているか」「今後どうなっていきたいか」という抽象度の高い話題へ広げていくと、自然に本音が出やすくなります。
ステップ4:院長は「聞く8割、話す2割」を意識する
面談でありがちな失敗が、院長が一方的に方針や改善点を話し続けてしまうことです。スタッフの話を遮らず、うなずきながら最後まで聞く。相槌のあとに「もう少し詳しく聞かせてもらえますか」と促すだけでも、スタッフが話す量は大きく増えます。
面談で本音を引き出す質問例と話の広げ方
実際にどのような質問を投げかければよいか、迷う院長先生も多いはずです。ここでは現場で使いやすい質問例を、具体的な流れとともにご紹介します。
アイスブレイクから本題への橋渡し
「最近、印象に残った患者さんとのやりとりはありますか」というオープンな質問は、スタッフの緊張をほぐしながら、日々の仕事への向き合い方を知る手がかりにもなります。歯科医院向けのミーティング運営の解説記事でも、正解のないテーマから入り、スタッフが場に慣れてから本題に進む段階的な進め方が有効とされています。面談も同じ発想で設計すると、格段に話しやすい雰囲気が生まれます。
本音を引き出す3つの問い
具体的には「今、業務でやりにくいと感じていることはありますか」「患者さんやスタッフ同士のやりとりで気づいたことはありますか」「これから半年〜1年でどうなっていきたいですか」という3つの問いを軸にすると、業務改善・人間関係・成長意欲という異なる切り口から本音を引き出すことができます。
院長自身の自己開示を先に行う
本音を話してほしいなら、まず院長自身が自分の悩みや失敗談を先に話してしまうのが効果的です。「実は自分もこの部分に自信がなくて」と正直に伝えたベテラン院長のもとでは、スタッフからも「実はこの器具の位置がやりにくくて」といった具体的な改善提案が自然と出てくるようになったという事例もあります。院長が先に鎧を脱ぐことでしか、相手も鎧を脱いでくれません。
自分で行う面談と、外部に任せる面談代行の違い
ここまでご紹介したやり方を実践しても、「わかってはいるけれど、自分ではどうしても院長という立場が壁になる」と感じる先生も多いはずです。実際、歯科医院の親子承継に関する解説記事でも、後継者と現院長の間で交代時期や決定権が曖昧なまま進み、スタッフの不信感を招くケースが多く報告されています。院長本人による面談だけでは限界がある場面も、正直に見つめる必要があります。
そうした場合の選択肢として、コーチングの専門家による面談代行があります。それぞれの特徴を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 院長自身が面談 | 外部の面談代行・コーチング |
|---|---|---|
| 費用 | 実質0円(人件費のみ) | 月数万円〜(医院規模により変動) |
| 本音の出やすさ | 評価者という立場上、遠慮されやすい | 第三者のため率直な意見が出やすい |
| 院長の負担 | 診療後の時間を圧迫しやすい | 準備から実施まで任せられる |
| 継続のしやすさ | 忙しさで後回しになりがち | スケジュール化され継続しやすい |
| 得られるもの | 現場感覚を直接把握できる | 客観的な分析と改善提案 |
外部の視点が組織を変えた事例
ある継承2年目の院長は、半年間自己流で面談を続けても手応えを得られずにいましたが、外部のコーチングによる面談代行を導入したところ、これまで聞けなかった「実は開業医の家族経営に馴染めず孤立を感じていた」というスタッフの本音を初めて知ることができたそうです。院長という立場そのものが心理的な壁になっている場合、第三者の存在が本音を引き出す潤滑油になることは決して珍しくありません。
どちらを選ぶべきか
すべてを外部に任せる必要はありません。日常の1on1は院長自身が行いつつ、年に数回、外部の専門家による面談を組み合わせることで、院長では拾いきれない本音を補完する。この「併用」が、多くの継承院長にとって現実的で無理のない形だと感じています。
まとめ|スタッフ面談は「型」で変わる
前院長と比較され、スタッフとの距離を感じてしまうのは、あなたの努力が足りないからではありません。多くの場合、原因は「院長自身が弱みを見せられていないこと」「比較を恐れて自分の言葉で語れていないこと」「面談が制度として設計されていないこと」の3つに集約されます。逆に言えば、この3つに正面から向き合い、目的の共有・定期的な頻度・聞く姿勢を「型」として整えるだけで、スタッフとの関係は着実に変わっていきます。
私自身、多くの継承院長のコーチングに携わる中で、面談のやり方を変えただけでスタッフの表情が明るくなり、離職の連鎖が止まった医院を何度も見てきました。完璧な面談を最初から目指す必要はありません。まずは月1回、15分から始めてみてください。小さな一歩の積み重ねこそが、前院長とは違う「あなただけの信頼」を築いていく道になります。
もし、自分一人で面談のやり方を模索することに限界を感じていたり、第三者の視点でスタッフの本音を聞いてみたいと感じていたりするなら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
よくある質問
Q1. 歯科医院のスタッフ面談はどのくらいの頻度で行うべきですか?
A. 目安は1人あたり月1回15〜30分です。難しければ2〜3ヶ月に1回から始めましょう。
Q2. 面談で何を話せばいいかわかりません。
A. 業務の困りごと・気づき・今後の希望の3つを順番に聞くと自然に話が広がります。
Q3. スタッフが本音を話してくれません。
A. 評価の場ではないと伝え、院長が先に自分の弱みや失敗談を話すと安心されやすいです。
Q4. 前院長と比較されてやりにくいです。
A. 比較は自然な反応です。焦らず自分の言葉で方針を伝え続けることが信頼につながります。
Q5. 面談を外部に任せるメリットは何ですか?
A. 第三者だから本音が出やすく、院長は診療に集中しながら組織改善を進められます。
