「またあのグループLINEか」と気づいてしまった日
診療が終わったあと、スタッフルームの空気がふっと静まる瞬間はありませんか。誰かが院長に気づいて、スマートフォンの画面をそっと伏せる。話題が急に変わる。あとで別のスタッフから「実は院長の悪口を言うグループLINEがあるみたいです」と耳打ちされる——こうした経験をしたことがある二代目・三代目院長は、決して少なくありません。
「自分がいない場所で、自分がどう言われているのか分からない」という感覚ほど、経営者を消耗させるものはありません。前院長の代から働くベテランスタッフと、自分がまだ信頼関係を築けていない若手スタッフの間に、見えない線が引かれているように感じることもあるでしょう。
私自身も、歯科医院の組織づくりに関わる中で、院長先生から「スタッフの陰口に気づいてから、診療中も気が抜けなくなった」というご相談を数えきれないほど受けてきました。多くの場合、院長は「自分の何が悪いのか」を探して自分を責めてしまいますが、実は陰口の背景には、個人の資質とは別の「組織の構造的な問題」が隠れています。この記事では、歯科医院で陰口や派閥LINEが生まれる本当の原因と、コーチングの視点から実践できる具体的な対処法をお伝えします。
陰口は「個人の性格」ではなく「組織の症状」
陰口やグループLINEでの悪口というと、つい「性格の悪いスタッフがいるから」と個人の問題として片づけたくなります。しかし組織行動学の観点から見ると、陰口は多くの場合、職場に安心して意見を言える場がないことのサインとして表れる症状です。
言いたいことを本人に直接言えない、言っても聞いてもらえないと感じている、あるいは言うことで評価が下がるかもしれないと恐れている——そうした状態が続くと、不満のはけ口は「本人のいないところ」に向かいます。これは歯科医院に限らず、あらゆる職場で起こる普遍的な現象です。厚生労働省の職場環境調査でも、離職理由の上位に一貫して「人間関係」が挙がり続けていることは、この構造を裏付けています。
陰口を「悪いスタッフの問題」として処理しようとすると、根本原因を見誤り、同じことが形を変えて繰り返されます。院長がまずすべきは、犯人探しではなく、なぜこの職場でそれが起きているのかという構造に目を向けることです。
以前ご相談をいただいたある医院では、院長が「特定のスタッフが感じの悪い態度を取る」ことに悩み、そのスタッフとの関係改善だけに注力していました。しかし実際にヒアリングを重ねると、問題の中心は特定の個人ではなく、「意見を言うと次のシフトで割を食う」という暗黙のルールが職場全体に浸透していたことでした。個人への対応だけでは、この種の問題は解決しません。
放置するとどうなるか|陰口がもたらす実害
陰口や派閥LINEを「よくあること」と放置してしまうと、じわじわと医院経営そのものに影響が及びます。まず起こるのが、優秀なスタッフから静かに辞めていくという現象です。人間関係の悪化に敏感な、患者対応の丁寧なスタッフほど、居心地の悪さを察知して転職活動を始めます。求人サイトの調査でも、歯科衛生士・歯科助手の離職理由の上位に「職場の人間関係」が繰り返し挙げられており、給与や待遇よりも人間関係が離職の決め手になるケースは珍しくありません。
次に起こるのが、患者対応の質の低下です。スタッフ同士がぎくしゃくした状態で診療にあたると、その空気は驚くほど患者に伝わります。受付の表情、アシスタント同士の連携、ちょっとした声かけの温度感——これらはすべて、院内の人間関係を映す鏡のようなものです。結果として口コミ評価が下がり、新規患者の獲得にも影響が及ぶことすらあります。さらに、院長自身も「今日はスタッフルームに顔を出すのが憂鬱だ」という状態が続くと、経営判断そのものに集中できなくなっていきます。
歯科医院で陰口が生まれる3つの原因
原因1|心理的安全性の欠如
「こんなことを言ったら院長にどう思われるだろう」とスタッフが常に顔色をうかがっている状態では、率直な意見交換は生まれません。心理的安全性とは、Google社の労働改革プロジェクトでも「チームの生産性を左右する最大の要因」として報告された概念で、間違いを指摘しても、意見が違っても、この場では対人関係上のリスクを負わないと感じられる状態を指します。これが欠けている職場では、不満は表に出ず、水面下のグループLINEやランチの席での陰口という形で蓄積していきます。
原因2|前院長との比較と、まだ確立されていない信頼
継承したばかりの二代目・三代目院長は、多くの場合「前院長ならこうしなかった」という無言の比較にさらされています。長年勤めるスタッフにとって、新しい院長のやり方はまだ「試されている」段階です。信頼関係が確立する前の空白期間に、不安や戸惑いが陰口という形で表出しやすくなります。これは院長の能力の問題ではなく、組織の代替わりに必ず伴う過渡期の現象だと理解しておくことが大切です。
原因3|情報の非対称と、公式な対話の場の不足
院長が経営判断の背景をスタッフに説明する機会がないまま、シフト変更やルール変更だけが降りてくると、スタッフは「なぜ」を推測で埋めようとします。推測は往々にして悪い方向に膨らみ、それが噂話として広がります。定例のミーティングや1対1の面談といった「公式に本音を話せる場」が不足している医院ほど、非公式な裏の情報網が発達しやすいというのは、私が現場で繰り返し目にしてきた傾向です。ある医院では、月次ミーティングを再開しただけで、半年後にはグループLINEでの愚痴の頻度が明らかに減ったという報告を院長ご本人からいただいたこともあります。情報が公式なルートで流れるようになると、非公式なルートに頼る必要性そのものが下がっていくのです。
コーチングの視点から見る具体的な解決方法
1on1面談で「話せる場」を制度化する
陰口対策の土台は、非公式な情報網に頼らずとも本音を話せる公式な場をつくることです。月1回、15〜20分程度でよいので、スタッフ一人ひとりと1対1で話す時間を設けましょう。ここで重要なのは、指導や評価の場にしないことです。コーチングでは「相手の話を評価せずに最後まで聴く」ことを基本姿勢とします。院長が話すのではなく、スタッフに話してもらう時間だと割り切ることが、本音を引き出す最大のコツです。質問の仕方も工夫が必要で、「何か問題はある?」という漠然とした聞き方より、「最近、業務でやりづらいと感じた場面はあった?」のように具体的に尋ねる方が、スタッフは答えやすくなります。最初の数回は当たり障りのない返事しか返ってこないかもしれませんが、それは自然なことです。継続すること自体が「この院長は話を聞いてくれる」という信頼の土台になります。
陰口を耳にしたときの対応フロー
もし陰口やグループLINEの存在を知ってしまった場合、感情的に問い詰めるのは逆効果です。以下の順序で対応することをおすすめします。
まず、誰から聞いた話かを詮索せず、事実確認を急がないこと。次に、関係者を名指しで問い詰めるのではなく、チーム全体に向けて「最近、意見や不満を言いにくい雰囲気はないか」とオープンに問いかけること。そして、個別に不満を抱えていそうなスタッフには、1on1の場で「最近どう?」と間口を広く尋ね、本人が話したいタイミングを待つこと。犯人を探すより、次に同じことが起きない仕組みを作るほうが、長期的にはるかに効果的です。
行動規範を明文化し、感情ではなくルールで対応する
「悪口を言ってはいけません」という精神論だけでは組織は変わりません。ミーティングの進め方、意見の伝え方、シフトや業務分担の決定プロセスなど、「不満をどう扱うか」を医院のルールとして明文化することで、感情的な対立が起きにくい土壌ができます。たとえば「業務上の改善提案は月次ミーティングか1on1で伝える」という運用ルールを設けるだけでも、噂話に流れる不満の量は目に見えて減ります。ルールは院長が一方的に決めるのではなく、スタッフを交えて一緒に作ることで、「押し付けられたルール」ではなく「自分たちのルール」として受け止められやすくなる点も重要なポイントです。
今日からできる5つの具体的アクション
1つ目は、来月の1on1面談のスケジュールを今日中にスタッフ全員分、仮でよいので組んでみることです。2つ目は、直近の経営判断のうち、まだ説明していないものを1つ選び、次の朝礼で背景を共有することです。3つ目は、「最近チームの雰囲気で気になることはある?」と、信頼できるスタッフ1人に個別に聞いてみることです。4つ目は、陰口そのものではなく「なぜ言いにくい空気があるのか」を自分自身に問い直すことです。5つ目は、一人で抱え込まず、第三者であるコーチや外部の面談代行サービスに、今の状況を客観的に整理してもらうことです。院長一人で組織の空気を変えようとすると、渦中にいるがゆえに見えないものがたくさんあります。
この5つは、どれも特別な準備や予算を必要としません。大切なのは一気に全部を変えようとしないことです。まずは1つだけ、今日中に着手できるものを選んでみてください。小さな一歩の積み重ねが、半年後の職場の空気を確実に変えていきます。
まとめ|陰口は「組織を立て直すサイン」
スタッフの陰口や派閥LINEに気づいたとき、多くの院長は「自分は嫌われているのではないか」と不安になります。しかし実際には、陰口は個人への評価というより、組織に安心して話せる場が足りていないことを教えてくれるサインです。原因を個人ではなく構造に求め、1on1面談や情報共有の仕組みを整えていくことで、少しずつ空気は変わっていきます。
とはいえ、当事者である院長がこの変化を一人で進めるのは簡単ではありません。渦中にいるからこそ見えにくい部分を、第三者の視点で整理することが、遠回りに見えて実は一番の近道になることが多いのです。まずは無料体験説明会でお話を聞かせてください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. スタッフの陰口を注意すると、余計に関係が悪化しませんか?
直接的に「陰口はやめなさい」と注意するより、なぜ言いにくい空気があるのかという構造に働きかける方が効果的です。個人を責めるのではなく、チーム全体への問いかけとして扱うことをおすすめします。
Q2. グループLINEの内容を見せてもらうべきですか?
おすすめしません。内容を詮索する行為自体が、さらなる不信感を生む可能性があります。それよりも公式な対話の場を増やし、非公式な情報網に頼らなくてもよい環境をつくることに力を注ぎましょう。
Q3. 前院長の代からいるベテランスタッフには、どう接すればよいですか?
比較されることを恐れて距離を取るのではなく、経験への敬意を言葉にしたうえで、今後の方向性については院長自身の言葉で丁寧に伝えることが大切です。
Q4. 1on1面談で本音を話してもらえません。どうすればよいですか?
最初から本音が出ないのは自然なことです。評価や指導をしない場だと繰り返し伝え、雑談から始めることで、少しずつ話しやすい関係を築いていけます。
Q5. 外部の面談代行やコーチングを利用するメリットは何ですか?
院長という立場ではスタッフが本音を話しにくい場面でも、利害関係のない第三者になら話せることが多くあります。客観的な視点で組織の状態を可視化できる点も大きなメリットです。
Q6. スタッフの入れ替わりが多い医院でも、この方法は効果がありますか?
効果があります。むしろ人の入れ替わりが多い医院ほど、公式な対話の場や行動規範がないまま「その場の空気」で運営されがちです。仕組みとして定着させることで、新しいスタッフが入っても同じ空気が引き継がれやすくなります。
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