「前院長のほうが話しやすかった」その一言が、今も胸に刺さっていませんか
先代から医院を引き継いで2〜3年。診療技術には自信がついてきた一方で、スタッフとの距離感だけは、いまだにうまくつかめない——そんな悩みを抱えていませんか。
朝礼で伝えたはずのことが伝わっていない。ベテラン衛生士の顔色をうかがいながら指示を出している。何より、スタッフが何を考えているのか、本当のところが見えない。「経営は継げても、人の心までは継げなかった」。これは、私がこれまでお会いしてきた継承2〜3年目の院長先生方から、本当によく聞く言葉です。
こうした悩みを解決する方法として、最近「1on1ミーティング」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。書籍やセミナーで紹介され、IT企業を中心に広がった手法ですが、「歯科医院で本当に効果があるのか」「具体的にどう始めればいいのか」がわからず、手をつけられずにいる院長先生も多いはずです。
この記事では、歯科医院という少人数・多忙・院長交代直後という特殊な環境を前提に、1on1ミーティングの導入方法を具体的な手順に落とし込んでお伝えします。単なる一般論ではなく、継承2〜3年目という立場だからこそ直面する壁を踏まえた内容です。最後まで読んでいただければ、明日からの一歩が見えてくるはずです。
1on1ミーティングとは?歯科医院における意味と位置づけ
1on1ミーティングとは、院長とスタッフが定期的に一対一で行う対話の場であり、業務指示ではなく信頼関係の構築とスタッフの本音把握を目的とした継続的なコミュニケーション手法です。
一般的な人事評価面談やスタッフ面談と混同されがちですが、決定的に違うのは「主役が誰か」という点です。評価面談は院長が評価を伝える場、朝礼やミーティングは業務連絡の場ですが、1on1はスタッフが話したいことを話す場です。院長は聞き役に徹し、業務の進捗や成果ではなく、スタッフ自身のコンディションやキャリア、悩みに焦点を当てます。
なぜ今、歯科医院にこの手法が必要なのでしょうか。厚生労働省の調査でも、離職理由の上位に「人間関係」「意思疎通の不足」が繰り返し挙げられており、歯科医院のような少人数職場ではその影響がとりわけ大きく出ます。スタッフ数名の医院で1人辞めれば、シフトも診療スケジュールも一気に崩れます。だからこそ、退職の兆候が表面化する前に、日常的に本音を拾い上げる仕組みが欠かせないのです。
私たちが支援先の医院で1on1導入前後のアンケートを取った際、ある衛生士歴8年のスタッフはこう答えてくれました。「今まで院長先生と話すのは、ミスを指摘されるときか、忙しいときの立ち話だけでした。座って15分でも自分の話を聞いてもらえるだけで、こんなに気持ちが違うんだと初めて知りました」。この一言に、1on1が持つ本質的な価値が凝縮されていると感じます。
スタッフとの関係がこじれる3つの原因
1on1の話に入る前に、なぜ継承2〜3年目の院長とスタッフの間に溝ができやすいのか、その構造を整理しておきましょう。原因を理解しないまま手法だけを導入しても、うまく機能しません。
原因1:先代との比較という、逃れられない重荷
多くのスタッフは先代院長のもとで採用され、その診療スタイルや人柄を「当たり前」として働いてきました。新しい院長がどれだけ努力しても、無意識に「前院長ならこうだった」という比較の物差しで見られてしまいます。これは新院長の実力の問題ではなく、構造的に避けられない現象です。比較されることを恐れて距離を置けば置くほど、溝は深くなります。
原因2:診療に追われ、対話の時間が構造的に存在しない
歯科医院の1日は分単位のスケジュールで動いています。院長がスタッフと言葉を交わすのは、診療の合間の立ち話か、忙しい時間帯の業務連絡がほとんどです。「話す時間がない」のではなく、「話す時間を意図的に確保する仕組みがない」というのが正確な表現でしょう。
原因3:フィードバックが「指摘」としてしか届いていない
継承直後は、院長自身も医院運営に必死で、スタッフへの声かけが「できていないこと」の指摘に偏りがちです。褒める・認める・聞くという関わりが不足すると、スタッフは「見てもらえていない」と感じ、心を閉ざしていきます。
私自身、開業医の家庭に生まれ、人間関係の難しさを間近で見て育った一人として、この3つの原因が重なったときにスタッフの心がどれほど離れていくかを痛感してきました。技術や経営知識では埋められない溝が、確かに存在するのです。
歯科医院での1on1ミーティング導入方法【7ステップ】
ここからは、実際に1on1を導入するための具体的な手順を7つのステップでご紹介します。歯科医院特有の時間的制約を前提に、無理なく続けられる形に落とし込んでいます。
ステップ1〜3:導入前の準備
ステップ1|目的をスタッフ全員に説明する
いきなり「今日から1on1をやります」と告げると、スタッフは「何かの査定では」と身構えてしまいます。朝礼やミーティングの場で、「評価のためではなく、皆さんの声を聞くための時間として設けたい」と院長自身の言葉で目的を伝えることが第一歩です。
ステップ2|頻度と時間を現実的に設定する
理想は月1回、1回15〜20分です。週1回・1時間という一般企業向けの型をそのまま歯科医院に持ち込むと、診療時間を圧迫し、確実に形骸化します。診療前の30分や、昼休憩の後半15分など、既存のスケジュールに無理なく組み込める時間帯を選びましょう。
ステップ3|簡単な面談シートを用意する
「最近の体調・気になっていること・院長への要望」程度の3項目でよいので、事前に記入してもらうシートを準備すると、当日の対話がスムーズになります。
ステップ4〜5:実施のポイント
ステップ4|院長は「話す」より「聞く」に徹する
1on1で最も陥りやすい失敗は、院長がつい業務指示や改善点の話に持っていってしまうことです。話す割合はスタッフ8割・院長2割を意識し、相づちと質問で話を引き出します。
ステップ5|テーマ例を持っておく
何を話せばよいか迷う場合は、以下のようなテーマが有効です。
– 最近やりがいを感じた瞬間
– 業務で困っていること・不安なこと
– 今後身につけたいスキルやキャリアの希望
– 院長やチームに伝えておきたいこと
ステップ6〜7:記録とフォローアップ
ステップ6|内容を簡潔に記録する
話した内容をその場で細かくメモすると威圧感を与えるため、面談後に3行程度で要点を記録します。次回の冒頭で「前回話していた○○はどうですか」と触れるだけで、スタッフは「ちゃんと覚えていてくれた」と感じ、信頼が積み重なります。
ステップ7|完璧を求めず、まず3か月続ける
1回で劇的な変化を期待せず、最低3か月は継続してください。ある医院では、導入1〜2回目は当たり障りのない会話に終始していたスタッフが、3回目以降に「実は先代の頃から気になっていたこと」を打ち明けてくれたという事例もあります。信頼は、面談の回数分だけ積み上がるものです。
継承2〜3年目の院長が陥りやすい3つの失敗
手順を知っていても、継承直後という特殊な立場ゆえの落とし穴があります。ここでは実際に相談を受けた事例をもとに、よくある失敗パターンをお伝えします。
失敗1:いきなり理想形を目指して息切れする
書籍通りに「週1回・30分」で始めた院長先生が、2か月ほどで診療の忙しさに押され、1on1が立ち消えになってしまったケースがありました。頻度を下げてでも「必ず続く形」を優先することが、継承直後の医院には何より重要です。
失敗2:先代を知るベテランスタッフには効果が出にくい
勤続10年以上のベテランスタッフは、新院長との1on1に対して「今さら」という警戒心を持ちやすい傾向があります。無理に本音を引き出そうとせず、まずは業務上の困りごとなど話しやすいテーマから始め、時間をかけて関係を築く姿勢が必要です。
失敗3:院長自身が本音を見せられない
私自身も、コーチングを学ぶ前は「弱みを見せたら舐められる」と思い込み、スタッフの前では常に完璧な院長を演じようとしていました。しかし本音で向き合わない限り、相手も本音を返してはくれません。院長自身が「実は自分もまだ手探りで、皆さんの力を借りたい」と素直に伝えたとき、初めてスタッフの表情が変わったという声を、支援先の院長先生から何度もいただいています。弱さを見せる勇気が、信頼関係の入り口になります。
それでも本音が引き出せないときに考えたい選択肢
ここまでの方法を実践しても、「自分が聞き手だと、どうしても本音が出てこない」と感じる院長先生は少なくありません。それは決して院長の力不足ではなく、当事者である以上、避けられない構造的な限界です。
とくに継承直後は、スタッフから見て院長がまだ「評価する側」「先代と比較する対象」として認識されていることが多く、どれだけ丁寧に1on1を設計しても、心理的な壁が完全には消えないことがあります。
こうした場合、第三者が面談に入ることで、スタッフが院長には言いにくい本音を引き出せるケースが多くあります。ある医院では、院長主導の1on1を半年続けても表面的な会話にとどまっていたスタッフが、外部の面談代行者との対話で「本当は先代のときのやり方に戻してほしい部分がある」と初めて本音を明かし、それを院長にフィードバックしたことで、具体的な運営改善につながった例があります。第三者の存在は、院長とスタッフの間の“翻訳者”になり得るのです。
PlumChanでは、こうした歯科医院特有の事情を踏まえたコーチング研修とスタッフ面談代行サービスを提供しています。1on1の型だけを教えるのではなく、継承2〜3年目という立場ならではの悩みに寄り添いながら、医院ごとに無理のない形を一緒に設計していきます。
まとめ|1on1は「先代を超える」ためのものではなく「自分らしい医院」をつくるためのもの
1on1ミーティングは、先代と自分を比較するための道具ではありません。むしろ、先代とは違う自分だからこそできる、新しい信頼関係の築き方です。
- スタッフとの溝は、比較・時間不足・フィードバック不足という3つの原因から生まれる
- 頻度は月1回15〜20分程度から、無理なく続けられる形で始める
- 院長は「話す」より「聞く」に徹し、記録と継続でスタッフの信頼を積み上げる
- ベテランスタッフには時間をかけ、院長自身も本音を見せる勇気を持つ
- それでも難しいときは、第三者の力を借りることも一つの選択肢
継承したばかりのあなたが今日から始められることは、決して特別なことではありません。まずは月に一度、15分だけ、スタッフと向き合う時間をつくってみてください。その積み重ねが、いつか「この院長で良かった」という言葉につながっていきます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 1on1ミーティングと通常のスタッフ面談は何が違いますか?
A. 通常のスタッフ面談や評価面談は「院長が伝える・評価する場」であるのに対し、1on1ミーティングは「スタッフが話し、院長が聞く場」です。業務指示や評価を目的とせず、スタッフの本音やコンディションを把握することに主眼を置く点が最大の違いです。
Q2. 歯科医院での1on1ミーティングはどのくらいの頻度・時間で行うべきですか?
A. 一般企業では週1回30分〜1時間が推奨されることもありますが、診療業務が中心の歯科医院では現実的ではありません。月1回15〜20分程度を目安に、無理なく継続できる頻度から始めることをおすすめします。
Q3. 忙しい診療の合間に1on1の時間を確保するにはどうすればいいですか?
A. 診療前30分や昼休憩の後半15分など、既存のスケジュールの隙間を活用するのが現実的です。新たに大きな時間枠を作ろうとせず、「毎月この曜日のこの時間」と固定化することで習慣化しやすくなります。
Q4. 1on1で何を話せばいいかわかりません。おすすめのテーマはありますか?
A. 「最近やりがいを感じた瞬間」「業務で困っていること」「身につけたいスキルやキャリアの希望」「院長やチームへの要望」といったテーマが話しやすくおすすめです。事前に簡単なシートに記入してもらうと、当日の対話がスムーズになります。
Q5. スタッフに「今さら1on1?」と警戒されないか心配です。継承したばかりの院長が始めても大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。むしろ継承したばかりだからこそ、「評価のためではなく、皆さんの声を聞きたい」という目的を院長自身の言葉で丁寧に伝えることが効果的です。最初から本音を求めず、業務上の困りごとなど話しやすいテーマから少しずつ関係を築いていく姿勢が大切です。
